小説 | ナノ





その店は星空を見ながらお酒が飲めるのをウリにしていた。座席はおろかカウンターまで外にあり、もちろん屋根などない。つまり、必然的に営業日は晴れの日に限られる。そんな天候任せのいい加減な店が、超高級なワインや珍しいカクテルなんか扱ってる訳もなく、あるのは安いワインとビールだけ。それでも根強い人気があるのは、料理が美味しいお陰だろう。


ミネアの小言を軽く聞き流し、宿屋を抜け出す。特に目的地もないので適当に歩くことにした。路地裏に差し掛かった時、そういえば、と店の存在を思い出して、記憶を頼りに道を進む。辿り着いたそこは、以前訪れた時と何も変わっていなかった。

安い白ワインのボトルを傾けると、透き通った液体でグラスが満たされていく。ふと前方に視線をやると、見慣れた姿が目に入った。向こうも気づいたようで、こちらに向かって歩いてくる。「マーニャさんに逢えて、よかったです」とホッとしたような表情を浮かべたところからして、連れ戻しにきたのではなく、ただ単にうっかり路地裏で迷っただけのようだ。


「一杯、付き合いなさいよ。」
そう言ってグラスを傾けてみせると「あ、お酒は…」と歯切れの悪い答えが返ってくる。真面目に規律を守っているのはコイツらしいと言えばコイツらしい。

「どうせ、聖職者は酒飲んじゃダメ、とかいう決まりでしょ。カタいこと言ってんじゃないわよ。」
「あ、いえ、そうではなくて、」
「…じゃあ何よ?」
「お酒飲むと、体調崩しちゃうんです。」

真顔で言ったのが妙におかしくて思わず噴き出す。「何で笑うんですか!」とむくれる様子は年相応に見えた。老成しているようで、まだまだ中身は成年にも満たない子どもだ。普段見れないガキっぽい部分を見たせいか、ついついからかいたくなってしまう。「あーハイハイ、分かったわよ。りんごジュース?オレンジジュース?」と茶化すように言うと、「もう!子ども扱いしないでください!」と声を荒げた。


「だって、それ以外無いわよ?ノンアルコール。」
「……う、」
「何にする?」
「……りんごジュース」

依然として拗ねたような表情を浮かべたままの青年は、自分の口調から敬語が抜けてきているのに気づいているのだろうか。
常連客と談笑しているマスターに声を張り上げると、程なくしてビールのジョッキに注がれたりんごジュースがテーブルに置かれる。相変わらず雑というか何というか。明らかに戸惑っている目の前の人物に「ストローいる?」と訊ねると、暫しの沈黙の後、こくりと首が縦に振られた。


再びワイングラスを傾けた私の視界の端で、それまで瞬いていた星が、流れて消えた。


安っぽいワインと最高級の星空で


*****
神官は勇者と姫がいない時に限り、ごく偶に年相応の素振りを見せるよ!っていう。
(110717)



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