小説 | ナノ





「…大丈夫か?」
「はい、何とか…」
青ざめてぐったりとしているクリフトに訊ねると弱々しい声が返ってくる。見上げた空はこれでもかというほどに晴れ渡っていた。


取り忘れたアイテムを回収するついでに世界樹の葉も摘んでこよう、と言う話になった。「そんなに強い魔物が出るわけでもないし、あんたとクリフト、二人でいけるでしょ。」というマーニャの言葉にそれもそうかと納得して今に至る。よくよく考えてみれば二日酔いで動きたくないマーニャにまんまと乗せられた気がしないでもないが。

世界樹は塔なんかと違ってほとんど壁がないし、風も強い。高所恐怖症のクリフトにとっては地獄のような場所だ。壁のあるところでこまめに休憩を取りながら進み、今は確か四階だった気がする。


「そろそろ行こうぜ。日が暮れる前に登りきりたいし。」
ぺたんと地面に腰を下ろしたままのクリフトに声をかけると、気まずそうに眉をハの字に曲げる。そのままの姿勢でこちらを仰ぐように見上げて、おずおずといったように口を開いた。

「あ、あの、」
「ん?どした?」
「…聞いても、怒りません?」
「いや、そりゃ内容にもよるけど。」

流石にここで「実は今まで黙ってたけど、MPもうないです☆薬草も使い切っちゃいました、てへぺろっ☆」とか言われたら俺だって怒る。まあ、クリフトに限ってそういうことはないだろうけど。う、と言葉に詰まってしまったクリフトに、「あー、分かった分かった。怒らないから言ってみ?」と先を促すと、ちらりとこちらを上目で見た後に口を開いた。

「……腰、抜けちゃいました」
「はぁ!?」

思いがけない言葉に頓狂な声をあげると、それに驚いたのかビクッと体を震わせる。申し訳なさそうな表情を浮かべて「すみません…」と謝るクリフトはどうやら本気で立てないらしい。高所恐怖症にしては頑張った方だと思うし、咎める気はこれっぽっちもないのだが。

「どーすっかな…」
今いる場所はどちらかと言えば頂上に近い。さっさと登ってアイテムだけ回収してしまいたいけれど、立てないクリフトをここに置いていくのは危険だ。…いっそ担いでいくか。

「なあ、お前体重何キロくらい?」
「60キロあるかないかくらいですけど…」
「……は?え、軽っ!!」
「言わないでください!気にしてるんですから!」

予想をはるかに下回る数値に一瞬聞き間違いかと思った。見た目からして華奢だから、そんなに重くないだろうとは思ってたけどまさかそこまでとは。
顔を真っ赤にして「体重が全然増えないんですよ!」と珍しく声を荒げた。そういえば病気が治った直後もベルトが緩いとか何とか言ってた気がする。それにしても、お前それ世の女の子達が聞いたら泣くぞ。

「まあいいや。60なら楽勝だし。」
「は?え、わっ!」
傍らにしゃがみ込んで、膝の下と肩に手を添える。ぐ、と力を込めると、軽々と体が持ち上がった。地に足がついていない不安定さが恐いのか、ひっ、と小さく悲鳴を漏らす。「目、瞑ってていいから。」と言うと、こくりと頷いて目を閉じた。魔物にあまり遭わないようにトヘロスを唱えて、念のため聖水も振りまいておく。辺りから魔物の気配が消えたのを確認して歩き始めた。



ウィーク・ポイント
「それにしても軽いよな…」
「だから気にしてるんですってば!」


*****

副題:私的神官のコンプレックス詰め込み話

(110618)



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