小説 | ナノ





100円で動くパンダやら熊やらの乗り物に、円の直径が2、3メートルしかないメリーゴーランド。ビニール製の恐竜、全体をぐるりと囲む汽車。デパートの屋上にある遊園地は、夏休み真っ盛りなこともあり今日も親子連れでそれなりに賑わっている。僕のバイト先の売店には、ソフトクリームを求めるちびっ子とその母親が長蛇とまではいかないものの列をなしていた。じりじりと照りつける日差しに汗がタラリと流れ落ちる。簡素なプレハブ小屋にエアコンなどついている筈もなく、首にかけたタオルで乱雑に汗を拭った。

「ねー、僕チョコのがいいー!」などと目の前で母親に向かってのたまうガキ(推定小学校1年生)に、「るっせー水でも飲んでろ」と言いたいのをグッと堪えて「何になさいますか?」と営業スマイルを向ける。しばらくシリコン製の見本とにらめっこをしていたガキは「チョコ!」と満面の笑みで言い放った。こっちの苦労も知らないで、全く持っていいご身分である。
コーンを持って、機械のレバーを引く。うにょうにょと出てくるチョコレートソフトをお馴染みの形に整えて差し出すと、引ったくるようにして食べ始めた。礼くらい言え、クソガキが。
「すみません、行儀が悪くて…」と謝る母親に溜飲を下げながら「いえ、いいんですよ」と笑顔で返す。代金を受け取って釣り銭を渡し、次のガキ、もとい大切なお客様に「いらっしゃいませ」と声をかけた。


ようやく列がなくなり一息吐く。時計を見ると引継の人が来るまで30分程あった。暇だし何より暑いので、自分用にソフトクリームを作ることに決め、財布から300円を取り出し木箱に突っ込む。どうでもいい話だが、この売店にはレジスターなるものが存在しない。売り上げは正をノートに記入、代金は全て木箱に突っ込むエトセトラエトセトラ…。今の時代には珍しい、なかなかにアナロギーな職場である。
うにょうにょうにょうにょ出てくるクリームをバランスを崩さぬように巻き付ける。通常より量が多少多めだが、こんな殺人的暑さの中数時間耐えたのだ。それくらいはまあ、ご愛敬だろう。

暫し無言でソフトクリームと格闘していると、「すいませーん」と声をかけられる。ああ畜生空気読めよ、と相手にとっては理不尽極まりない悪態を心中で吐きつつも営業スマイルを張り付けて立ち上がった。

「いらっしゃいませ。何になさいますか?」
「えーと…、カレーで。」
空気の読めない客は青いジャージを着た男性だった。年は20代後半といったところか。しかしこのクソ暑い中カレーとかコイツはどういう神経してるんだ。ていうかうちのメニューにそもそもカレーないし。

「お客様。申し訳ありませんが、カレーは扱っておりません。」
「え?あ、そうなの?んー、じゃあカレーおにぎり。」
「本質的にカレーと変わらねえじゃねえか!ねえよそんなもん!」

しまった、お客様相手に思わず突っ込んでしまった。聞こえてないといいなあ、と軽い現実逃避をしながら顔を上げると、ジャージ男は特に気にしていないようで「ちぇー」と口を尖らせているだけだった。よかった。

「じゃあ、ミックスソフトクリーム。」
「350円になります。」
ゴソゴソとポケットを探っているジャージ男を後目に、チョコとバニラのソフトクリームを手早く作る。「お待たせしました、」と差し出すと、何故かジャージ男は目を泳がせていた。

「あのー…、溶けますよ?」
「…財布忘れた。」
「はあ!?」
「しまったなー…ごめん、立て替えといてくんない?」
「立て替えって…。踏み倒されそうなんでイヤです。」
「即答しやがったよコイツ…。ええい、信用しんしゃい!」
「ええー…。初対面の人に言われても…。」
「あーもう!そんなに信用できないなら徴収に来ればいいだろ!そこのプラネタリウムで解説員やってるから!」

似合わねえ、と思わず呟くと聞こえていたらしく「ムキー!失礼なヤツだなお前は!」と憤慨された。面倒なオッサンである。

スターゲイザーとの邂逅

(110605)



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