小説 | ナノ





ごろり、と何度目になるか最早分からない寝返りを打つ。こんな状態がかれこれ二時間程続いていた。何故だか分からないが全く眠れないのだ。遅くに起きたということもなければ、カフェインを大量摂取した覚えもない。部屋の掛け時計に目をやれば1時を回ろうとしていた。横でスースーと規則正しい寝息をたてるクリフトが少し恨めしい。この野郎、気持ちよさそうに寝やがって。
ちょっとした恨みを込めてふにふにと頬を突っついてやると、「んん、」と声を漏らして眉間に皺が寄る。薄目を開けて、パチパチと数回瞬いた。まさか起きるとは思っておらず、咄嗟のことにどうしてよいのか分からないでいると、見上げられるような状態で目が合う。「そろ、さん?」とぼんやりとした口調で呼びかけられて、ああ、まだ目が覚めきった訳じゃないんだな。と妙に納得してしまった。


「ねれないんですか?」

寝起きで呂律が回っていないせいか、いつもに比べて幼い感じのする喋り方をするクリフトに新鮮さを感じつつ、「ああ、まあ」と曖昧に返事をする。その新鮮さが、いつも最初に起きるクリフトの寝起きを初めて見たことによるものだと気付いたのは後になってからだった。ふわあ、と大きく欠伸をしてすっかり目が覚めたらしく、「何か、温かいものでもお持ちしましょうか?」と問いかける声はいつもの喋り方と変わりがなかった。


暫くして戻ってきたクリフトの手にはマグカップが握られていた。湯気を立てるカップを受け取ると、ふわりとミルクの甘い香りが漂った。

「眠れない時は、ホットミルクがいいんですよ。」
「…悪い、起こしちまって。」
「いえ、気にしないでください。」
「サンキュ、」

にこりと微笑むクリフトに礼を言い、カップを傾ける。じんわりと暖かさが体中に行き渡った。

「…寝れそうですか?」
「んー…、多分。」
「じゃあ、寝れるまでついてます。」
「悪いって、そんな。」
「こう見えても私、寝かしつけるのうまいんですよ。」

寝かしつける、ってガキじゃねえんだから。と心の中で呟くと、「子供じゃないんだから、って思ったでしょう」と綺麗に言い当てられる。思わず言葉に詰まると、「まあ、騙されたと思って。」と言って、手招きをされた。飲み終わったカップをサイドテーブルにおいて、言われるがままにそちらへ向かう。クリフトは自分の膝を叩いてみせた。まさか、ここで寝ろということだろうか。流石にそれはないだろうと思いつつ訊いてみると「そうですけど。嫌ですか?」とあっさり返されてしまった。嫌ではないけれど、進んでやりたいとも思わない。俺だって男なのだから、どうせなら女の子の柔らかい足の方がいい。大体、同年代の男に膝枕されるって絵面的にどうなんだ。
躊躇する俺に向かって「早くしないと一睡もしないまま夜が明けちゃいますよー」と不吉なことをさらりと言うクリフトに、せめてもの抵抗として「寝れなかったら責任とれよ!」と捨て台詞に近い台詞を吐いて横になった。



とん、とん、と一定のリズムで肩の辺りを弱く叩かれる。自分で言うだけのことはあって、相当慣れた手つきだった。あのお転婆姫もこうやって寝かしつけられてきたのだろうか。もう片方の手で時折髪を梳かれ、徐々に瞼が重くなるのを感じる。畜生、悔しいけど気持ちいい。

「おやすみなさい、ソロさん。」
「おー…、おやす、み……」

意識が途切れ途切れになる中でそれだけ返すと、俺は完全に意識を手放した。

おやすみなさい、よい夢を。

*****
クリフトはいい保父さんになれると思う。
(110604)



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