向けられる好意に聡い方ではなかったが、それでも確信を持てるぐらいには分かりやすかった。 「何味がいいか分かんなかったから、一応、ソーダとバニラ買ってきたけど。」 突き出されたビニール袋には見慣れたパッケージが透けている。棒状のそれが意図するところを悟って、中学生男子のような発想に苦笑した。それでいて、選択の余地を与えて50%の可能性に期待するのだから、何と言うか、まあ。 「……ヘタレ、」 「え?何か言ったか?」 「いいえ、何も。…じゃあ、お言葉に甘えて。」 落ち着かない視線に気づかない振りをして、バニラ味のパッケージを手に取ると「よっしゃ」と呟く声がした。煩悩、隠せてないですよ。思いつつも口には出さないでおく。向こうが決定打を繰り出すまで、鈍感を装い続けるつもりでいた。自分から迫るというのは、どうも性に合わない。閑話休題。 包装を剥いて取り出すと、冷気が地面に向かって白く筋を描いた。ぺろりと舐めると、甘さが舌に広がる。火照った体に、冷たさが心地よかった。横目で窺うと、うっすらと頬を赤くした彼が見えた。期待しておいて、いざ叶ったら照れるらしい。早くも溶けて柔らかくなりだした先端を、わざとらしく音を立てて吸い上げてみる。視界の端の彼が、手の甲で口元を覆って顔を背けた。髪から覗く、赤くなった耳の原因が気温でないのは明らかだ。
「……どこかについてます?」 「いや、ついてないけど。」 「ソロさんは食べないんですか?」 溶けちゃいますよ、とビニールを指さすと、生返事をして包装を破く。表面は既に溶けかかっていた。げ、と声を漏らした彼が、慌てて人工的な水色を頬張る。しゃく、しゃく。氷を噛む音を横に聞きながら、溶けて指を伝った白を舐め取る。少しべたつくそれは、やっぱり甘い。
(130709)
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