小説 | ナノ





細い蔦のような何かが、足首に絡みついた。視線を下げた先に、蚯蚓のようにのたうつ触手が目に留まる。グロテスクな見た目に、思わず喉の奥が引きつった。足を止めた僅かな間に、腰や腕にまで巻き付いてしまったそれが、月の光を受けてぬらりと光る。今までに見たことのない魔物だった。
布越しにゆっくりと体を這われる。上手く声が出せないでいると、不意にベルトの金具がぼろりと崩れ落ちた。軽くなった肩に、弾かれたように顔を上げる。剣を提げていた革紐は、朽ちて見る影もない。表面から分泌される粘液にルカニと同効果があることを悟り、顔から血の気が引いた。焦りを助長するように、留め具を失って肌蹴た服の隙間から触手が入り込む。ふくらはぎから太股にかけて撫で上げるように這うぬるりとした感覚。脚の付け根を擦るように掠めた先端に、ひっ、と小さく声が漏れた。冷や汗混じりの液体が、内股を伝って地面に円を描く。
地面から伸びる無数の触手は、依然として蠢いていた。このまま、捕食されてしまったら。脳裏に浮かんだ考えを打ち消すようにかぶりを振る。生理的な嫌悪から溢れた涙が、ぱたぱたと飛び散った。
「ふ、は……っ」
詰めていた息の限界を告げるように、薄く口が開く。その隙を狙ったように、とろりとした液体が喉に流し込まれた。噎せ返るほど甘ったるい香りに顔を歪めたのも束の間、精一杯の抵抗をしていた手足から次第に力が抜けていく。立っているのもままならずに膝をつくと、感覚が乏しくなった手の先に、鞘が朽ちて剥き身になったナイフが触れた。魔除けが功を奏したのか、僅か十数センチほどの銀色は輝きを保っている。気力を振り絞って握りしめたそれを、自分の体を縛っているその根本に突き立てた。灼けるような音と異様な臭いが広がって、暫くして静寂が訪れる。薄れゆく意識の中、誰かに呼ばれたような気がした。

(130708)



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