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世界が平和になると、今までは素通りしていたものにも目が向けられるらしい。
けほ、こほ、と熱を帯びた空咳をしながらぼんやりとした頭で考える。体は熱を持っているのに手足の先は冷たい。体はだるく、頭が重い。そして咳と咽喉の痛みが治まらない。典型的な風邪の症状目白押しだ。目の前に広がるのっぺりとした天井を眺めていると、窓の外からきゃあきゃあと幼い子供の甲高い声が聞こえてくる。全体的に低下した体の機能に反比例して、耳の感度は大変良好だった。
部屋どころかベッドからも出られないクリフトを嘲笑うかのように、太陽の光は容赦なく窓から射し込んでくる。



生まれつき体が弱かったこともあり、クリフトはよく体調を崩した。旅の途中も一月に一回のペースで高熱が出ていたし、十日に一回は酷い頭痛に悩まされたし、三日に一回は耳鳴りがした。
アリーナが自室の壁を蹴破った時も体調は最悪だったのだが、不幸なことに城内で脱出劇に気付いたのが2人しかいなかった。回復呪文が使えないブライ一人に任せるわけにもいかず、高熱と頭痛と旅の道具を抱えて二階から飛び降りる羽目になった。死ぬかと思った。
魔界に乗り込んでからは本当に苦労した。空気が合わない、瘴気が酷い、寒暖差が激しい。病人を量産するためにあるような環境だった。殺す気かと思った。
ただ、仲間に露見するような失態はしなかったし、当然のごとくうつしもしなかった。回復呪文と解毒呪文の応用、薬草の調合、後は専ら民間療法で乗り切っていた。昔ながらの知恵は偉大だ。生姜には一生頭が上がりそうにない。



魔王を倒したことで気が緩んだのか、盛大に風邪を引いた。風邪を引くこと自体は別に大したことではなかったのだが、もう重い体を引きずって野外を歩かなくてもよいという感動と解放感から、仲間の前でぶっ倒れてしまったのが不味かった。



ここで力尽きたらしい。



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