小説 | ナノ





ノックもなしに部屋に入ってきたソロは、何を思ったかいきなりベッドに倒れこんだ。しかも、ベッドに座って髪を拭いていた僕を巻き込んで。必然的に押し倒される格好になって、逆光で色濃く影が落とされた顔が間近に迫る。相変わらず綺麗だなあ、と紫色の瞳を見つめながらぼんやり考えていると、形のいい唇がゆっくりと開いた。
「何でいるんだよ。」
何で、と言われても。自分が部屋を間違えたことに気づいていないのだろうか。
「僕の部屋だから。ソロの部屋はもう一つ隣でしょ。」
「ふうん」
要領を得ない返事と、言葉と共に吐き出される息に混じる果実酒の香り。「お酒飲んだ?」と問えば、「ん、少し」とあっさり肯定された。
脱力すると同時に、髪を乾かしている最中だったことを思い出す。乾ききっていない髪がシーツに散っているせいで、シャツの襟首はすっかり濡れてしまっていた。体温で変に温まって、気持ちが悪い。寝る前に取り替えた方がよさそうだ。
依然として覆い被さったまま退こうとしないソロに向き直ると、紫の瞳はこちらを真っ直ぐに見据えていた。長めの髪が頬を掠める。

「ねえ、ソロ。ソロってば。」
「何。」
「このままじゃ動けないよ。」
「大変だな。」
「あのねえ、」
自分の部屋帰って、もう寝なよ。
口から出かかった言葉は、ソロの唇に阻まれて飲み込まれる。荒れた唇が肌に触れてちくちくとした。いつものバードキスと違って長い。息が上手くできずに、溢れた唾液が口の端を伝ってとろりと零れ落ちた。ようやく解放されて、指で口元を拭う。果実酒が混じったそれは、ほんのりと甘い気がした。
突然のことに呆けているうちに、シャツに手が掛けられる。ボタンが外されて鎖骨の下辺りまでが晒された。

「ちょっと、ソロ、」
押し退けようと伸ばした手は、器用に纏め上げられてしまう。もうこれは諦めた方がいいかもしれない、と体の力を抜いたその時、相手の体からも力が抜けた。程なくして規則正しい呼吸が聞こえてくる。
言いたいことは山ほどあったが、対象が寝ているのだからどうしようもない。意識を飛ばした体は力が入っておらず、抜け出すのに苦労した。何とか這い出して体勢を整える。計ったようなタイミングでソロが寝返りを打った。人の気も知らずに気持ちよさそうに眠りやがって。非難を込めてソロの頬を抓ると、眉間に皺が刻まれた。

「次はちゃんと、素面の時に来てよね。」
口の中にはまだ、アルコール独特の風味が残っている。髪はいつの間にか乾いていた。

amoretto
(130324)



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