ビジョンに映った勇姿


「カッコよかった!」

アルゼンチン戦を終えた夜、夕餉を済ませて部屋に戻ろうとした私を呼び止めて守君はそう言った。

「…何が?」

「皆を励ましてくれたこと!」

唐突に切り出されて言われている意味がいまいち把握出来ていないまま小首を傾げる私を置いて、彼はどんどん話を進めていってしまう。興奮しているのかあちらこちらへ動き回る話を伺いつつ整理して、ようやく私がイナズマジャパンの皆に檄を飛ばしたところが放映されていて守君がそれを見たのだと言うことが分かった。けれど負けた試合のことをこんな風に話せるのは彼がその場にいなかったからだろうと思うと少し嫌な気分になった。影山という人にはめられたのは仕方のないことだと思うし(どう回避すればよかったかなんて私も分からない)困っている人を捨て置いておけないというのは守君のいいところだと思うけれど。

「守君ならそうするのかなって。でも結局負けちゃって…私じゃ駄目だったよ」

「駄目なんかじゃないよ!」

暗に自分がチームの柱であるという自覚がない状況じゃ駄目だという意味を込めた言葉は彼にそれを伝えることはなく、急に出された大声にむしろ私が驚かされてしまった。音が割と響く宿舎の廊下でそんな声を出したら誰かが不審に思ってしまうかもしれない。注意しようか、話の腰を折ってしまうか、私が迷っていることも構わない様子で守君はそのトーンのまま言葉を次いだ。

「最後まで諦めなかった試合なら、負けたって駄目じゃないんだ!」

だから、諦めかけた皆を奮い立たせてくれたふゆっぺはカッコよかった。そう告げられて、私ももう声の大きさなんて気にならなくなってしまって。

「残りの試合全部勝ってリベンジだ!」

「うん、守君…!」

どうしてだろう、彼の言葉には不可能を可能にしてしまうような力があるように思えるのだ。ちょっと毒づいてしまった私の心もあっさり懐柔してしまう。

私をカッコよかったと言う彼の、私のそれより余程格好いいであろう姿が頭の中のフィールドに浮かんできて頬が緩むのを感じた。

-------

由野嘉桜/Lemon squash

←back



第4回BLove小説・漫画コンテスト応募作品募集中!
テーマ「推しとの恋」
- ナノ -