03


「うわ、白石あの子振ったんか」
「おまっ、なんちゅー勿体無いことを!」

今日俺に告白してきた子は、学年を問わず男子に人気がある子やったらしく、庭園から講義のある教室へ戻れば、周りの奴らに質問攻めにされた。
振った理由は何やとかかんやら。

それが余りにも続くもんやからええ加減鬱陶しくなって、その1コマの間だけ耐えて、俺は大学を抜け出した。

せやけどバイトも休みの日やったし特にすることもない。
何して時間潰そうか、と考えてふらふら街を歩いとったら、懐かしい場所に辿りついた。

「まだあったんや……」

それは夕妃とのデートで来たことのある映画館。
今でこそショッピングモールやアミューズメントパークと一緒になっとる大きい映画館が多いけど、10年前はそんなん近くになくて、中学1年だった俺らでも行ける場所にあったのが、1スクリーンしかあらへん小さな映画館。
とっくに潰れてしもたと思うてたんに。

上映内容を見れば、大きなとこでは扱ってへんけど、以前ネットで見てちょっと興味が湧いた映画を取り扱ってたし、上映開始時間も間近やっちゅうことで入ってみることにした。

「変わってへんなぁ」
簡素な作りの座席はあの当時のまま。
けれど平日の昼中なせいか、観客はまばらやった。

あの時はまだ満席とまではいかんでもそれなりに座席も埋まってたような気ぃするねんけど。
変わっていないようで変わった映画館が、否応なしに時の流れを自覚させた。


***


ネットで評判になっとっただけあって、映画の内容はとても良かった。
けれど、なんとなく物足りひん気がするのは、以前は隣にあった夕妃の姿がないからだろうか。
あの時はまだこの映画館も流行のものを扱っていて、大ヒットした小説の実写を2人で観に来たんやっけ。
普段は天真爛漫で笑顔の絶えない彼女が、映画のヒロインに感情移入しすぎてぼろぼろに泣いていた。
外に出るとき、真っ赤な顔が恥ずかしいからと俺の腕にしがみ付いて、顔を隠してたんを今でもよう覚えとる。

思い返せば、あれが最後のデートになった。
それから1週間後、彼女は何も言わずに消えた。

『立花な、両親が離婚して遠方の親戚に引き取られたそうや。それも急に』
せやからお前に話すにも話されんかったんやろ。

彼女の事情を知ったのは、それから暫く経ってからだった。
自分に非があったのではないかと、自責する俺を見かねたオサムちゃんが、彼女の担任から聞いたという話をこっそり教えてくれた。

けれど、話を聞いたところで俺の気は晴れんかった。
どうして何も言ってくれへんかったんや、話してくれたらどうにかできたかもしれへんのに。
胸のうちに抱えるもやもやをぶつける相手はすでにおらんくて。

今思えば、例え彼女から真実を教えられていたとしても、中学生になったばかりの俺たちではどうすることもできなかったと思う。
それでも彼女が何も告げずに居なくなってしまったという事実は、俺の心に重く圧し掛かった。

「なぁ、夕妃。俺はそないに頼りなかったん……?」
答える人のない問いは、朱色に染まる空に虚しく溶けた。




-4-


back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -