05


映画館から家へと向かう帰り道。
身を裂くほどではないけれど、夕方になるとやはり肌に触れる風は冷たい。
百貨店などが立ち並ぶ道路の手前で、露店商を見つけた。

筵や木製のラックには、様々な種類の小物やアクセサリーが並べられとった。

前にもあったな。

『蔵くん、蔵くん。アクセ売っとるー。見てってもええ?』

脳裏に甦るのは夕妃と過ごした最後の休日。
映画の帰り道、先ほどまでの泣き顔はどこへやら、赤みの落ち着いた顔に笑顔を浮かべて、これによう似た露店に向かって駆け出していく彼女の背中を眺めながら、俺はゆっくりとした足取りで追いかけたんやった。

この場所に露店が立つのはかなり不定期。
今日見つけたんもなんかの縁やろか。
そう思って何の気なしにその店の商品を眺めとると、
「お、兄ちゃん男前やなぁ。顔に免じて安くしとくで」
気前のいい売り子のおっちゃんが話しかけてきた。
「いえ、」
みとるだけなんで、と断ろうとした瞬間言葉を止めた。
ふと視線を外した先に見つけた、小さな女性モノの腕時計。
シルバーチェーンに、薄いピンクの花がところどころに散りばめられていて、小さな文字盤も花の色と同じピンク。


『あ、これかわえー』

頭に響く声。
あの時、夕妃が手にとって眺めていたもんによう似とった。

中学生になったばかりの当時は、自分で自由に使えるお金っちゅうんも少なくて、映画観たり、パンフ買うたりなんやかんやとしていたら、所持金は交通費くらいしか残ってへんかった。

『ごめんな、買うてやりたいけど、お金が……』
恥ずかしながらも正直に伝えれば、彼女は『そんなん気にせんで。ウチも買うお金持ってへんもん』と明るく笑った。


「あの、これ下さい」
「ほい、2000円な」
値札の2500円から、さっきの言葉通り多少のおまけをしてくれて、おっちゃんがその腕時計を包んでくれた。
あの時も似たような感じでおまけしたるで、みたいなこと言われたけど、それでも手が出えへんもんやったのに。
今ではそれほど気にすることなく買えてしまう。

買うたところで、渡す相手はもうおらへんのに。


「これ、どないしよ」
丁寧に袋に収められた時計を眺めて、溜息をつく。
俺が使うわけにもいかへんし、かといって妹の友香里にあげるんも釈然とせん。
無駄なもんは買わん主義やったのにな。

あの頃を思い出しただけで衝動買いした自分がなんか笑える。
けれど、それだけ夕妃がまだ俺の心の中に居続けとるんやと思うと、妙に切なくなった。

誰かが以前、アクセサリーを贈るのは束縛の証だと言っていた。
ネックレスは首輪で、ブレスレットは手錠。

もしあの時これを買っていて、夕妃に渡せていたのなら、少しは違っていたんやろうか。
彼女の心を俺の元に捕えておくことができたんやろうか。


誰かに譲ることも捨てることもできないその時計を、切なさと一緒に鞄の中にしまった。




-6-


back

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -