04


「ねー」
「やからさぁ」

自宅の最寄り駅から独り、夕暮れの街を歩いていると、懐かしい制服姿の女の子たちとすれ違った。
落ち着いた色合いのワンピースタイプの制服は、私も数ヶ月間だけだけど身に着けていた。

試合でもあったのかな。

彼女たちが背負っているテニスバックを見てそう思う。

行ってみようか、四天宝寺。

ふとそう思って、私は元来た道を辿り駅へと向かった。



「変わってないなぁ」
どこの寺へ続く門前だ、と問いたくなるような正門までの道。
日曜日でも教員が残っているのか、学校というよりはやはりお寺の門に近いそれは観音開きにあいていた。

誰かに見咎められたら謝ってすぐ出て行けばいいよね。

誰に言うでもなく心の中で呟いて、その門をくぐる。

大阪を離れて以来1度も訪れたことはないのに、足はまだテニスコートの場所を覚えていた。

流石に休日の夕方ということもあって、コートへ入るための、日本の城郭の門かと疑うような厳ついそれは固く閉じられていた。
仕方ないので裏に回って中を覗けば、案の定真っ暗で誰もいない。
けれど、男女それぞれ4面ずつあるコートを見れば自然とあの時が思い浮かんだ。


***


私は小学校のときから地元のスポーツクラブでテニスをしていたこともあって、運動部は迷わずテニス部を選んだ。
四天宝寺は男女とも全国大会の常連という強豪校として有名だったから、自分がその中でどこまでやっていけるのか、力試しをしたかったのだ。

けれど、有名なだけあってテニス部は男女共に大人気。
そのため、入部したばかりの1年生は球拾いか素振りしかさせて貰えなかった。
物足りなかった私は、顧問と部長に練習後にコートを使わせて貰えるように掛け合って、毎日自主練習をしていた。


『なんや、キミも残ってるん?』

4面あるコートのうち、1番端っこのコートでひとりサーブ練習をしていれば、男子テニス部のコートと女子テニス部のそれを仕切る金網の向こうから、声を掛けられた。
振り返ると、小柄で明るい髪色で、整った目鼻立ちをした人形みたいに可愛い男の子。
そんな彼にひとつ頷くと、人懐っこい笑顔を返される。

『よかったらこっち来て俺とラリーせえへん?ひとりで練習しててもつまらんやろ?』


これが、私と彼との出会い。



「懐かしいなぁ……」
彼とはクラスどころか、クラスがある階も違っていて、本当に部活でしか接点がなかった。
この時出会わなければ、私は彼の存在をずっと知らないままだったかもしれない。
だからこそ、私はこれが運命の出会いだなんてロマンティックなことを感じていた。特に付き合うようになってからは尚更。
その先に待つ別れなんて知らずに。

本当に彼との出会いが運命だったなら、今も私の隣には彼がいたのだろうか。

あの時ちゃんと話せていたのなら。
彼に新しい連絡先を伝えていたのなら。

そんな仮定と共に後悔の念が私を襲う。
今まで心の奥底に閉じ込めて、決して蓋を開けないようにしていた想いが堰を切ったように溢れ出した。


「蔵くん……」

好きだよ。今でも。
黙って離れてごめんなさい。

届くはずのない言葉は、頬を伝って毀れた冷たい雫と一緒に、暗い地面に吸い込まれた。




-5-


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