Target


「あぁ、そりゃ『御釼桜架』やな」

今日は運動部の活動は全てオフ。
その代わり運動部生徒にも掛け持ちが奨励されている文化部の活動日や。
俺は部活動開始の時間になるとすぐに新聞部が部室として使用している小さな準備室へ向かった。
そして先日出会った弓道部員のことを、俺を中学ん時から小説作家として新聞部に引き込んだ遠矢部長に訊いてみると、さすがに四天宝寺一の情報屋を自称することだけはあって、すぐに答えが返された。

「ミツルギオウカ?」
「漢字で書くとこうなる」

遠矢部長は学ランの胸ポケットから、でかでかと「ネタ帳」と書かれた小さなノートを取り出して、そこに『御釼桜架』と記した。

「クラスは2年6組。中学までは府外の公立学校に通い、現在と同じく弓道部所属。個人で全国準優勝っちゅう結果も残しとる。ま、その腕を駆られて去年ウチにスポーツ推薦で入学したんやけどな」
「で?」
「成績は常に上位、運動もできる。容姿の評価も上々や。
 ……とまぁ、こないな感じで一応ほめ言葉が並ぶ。ま、女版のお前といったとこやろか」

部長のヒトを褒めとるんか貶しとるんかわからんような世辞には、適当に謙遜を返しておく。

「ただ、御釼にはひとつだけ大きな欠点があんねん」
「それは?」
「それはやなぁ…………、性格が滅茶苦茶冷淡やねん」

もったいぶった口調で遠矢部長。

「白石、お前彼女の異名知っとるか?」
「いえ」

俺の答えに満足したのか、遠矢部長はにやりと笑う。


「『雪の女王』や」


美しき孤高の女王。
遠矢部長曰く、彼女――御釼桜架は、口を開けば一瞬にして相手を凍らせる。
それくらい言動に容赦がない。
しかも、また正論をのたまうが故、誰も反論できへん。
そこからついた異名が『雪の女王』。

「他にも常に無表情やから鉄面皮とかな。まぁとにかく今では2、3年生はとにかくみんな怖がって近寄ろうともせん。ま、本人は全く意に介してもいないようやけどな」
「遠矢部長は?」
「んー、俺も御釼だけは遠慮願うわ。去年のインターハイのインタビューもにべなく断られたしな。その後もちょおーっとだけって聞きにいったら、言葉の刃でずったずたやねんもん」
「そりゃ、また……」

この部長の「ちょっと」は犯罪一歩手前のしつこさがあるから、あっちに非があるんかどうかはっきりせんけど。
せやけど、「世界中の人間は全員友達や」と公言しかねへんこの遠矢部長でさえも、彼女を苦手やというあたり、余計興味をそそられる。
色々と型破りな女やな。

「白石、他に訊きたいことあるか?」
「そうですね…やったら御釼桜架がよう行く場所ってわかります?」
「雪の女王の出現スポットか……。ちょお待ってな」

遠矢部長はそういうと、机の引き出しを漁って「有料」と表紙に記されたノートを取り出した。

「お、あったあった。御釼桜架は『昼休み 弓道場裏』や。いっつも独りで教室抜けてくらしいで。何しとるかまでは情報ないけどな」
「ふうん」
「あ、ちゅうてもこれ1年前の情報やからな。今もそうしとるんかどうかは保障できんで」

適当な相槌を返した俺に、正に今思い出したとばかりに遠矢部長が言うてきた。

「……遠矢部長、あんた四天宝寺一の情報屋やないんですか?」
「許せ、白石。俺は自分に有益な情報しか扱いたないねん。御釼も美人やから、こういう情報売れるかと思て集めてみたけど、無意味やったから追調査してへんねん」

その分、本来なら有料情報やけど特別に無料にしたるから、と顔の前で掌を合わせる遠矢部長。

「ま、ええですわ、おおきに」

大方必要な情報は得られた。
後は、まぁ自分で他のやつらに訊いてけばなんとかなるやろう。

そう踏んで、俺は新聞部を後にした。



***


「しっかしまぁ、今まで他人に興味を示さなかった白石が、あの御釼桜架に、ねぇ」

白石が姿を消した部室の中で、遠矢はひとりごちる。

雪の女王に白石が屈するか、はたまた雪解けがみられるか。
二人がくっつく、とかになったら新聞記事としてはかなり美味しい。

「ま、なんにせよオモロイもんがみれそうやな」


狙われた獲物
自分の立場をまだ知らない。



(さて、どうやって遊ぼうか)



-6-


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