Only you


「な、……に、してる、の……?」

放課後の保健室。
静かに開けられた扉の向こうで立ち尽くす桜架。
驚愕に丸くなった瞳が真っ直ぐにこちらを向いとる。

「別に。先輩には関係ないやろ」
「関係ない……って、そんな、」

震える声が抗議する。

「ないやろ。別れたんやから」
「私は、そんなつもり、」
「ないって?ウチの部長とよろしくやっとるクセに?」

昼間見た事実を告げれば、桜架は意味が解らないとでも言いたげな顔をした。

「どうして、そこで丹羽君が」
「白石君」

桜架の声を遮って、膝の上の女が甘えてくる。

「あんなの放っておいて、続きしよ?」

女の顔には勝ち誇ったような笑み。
桜架への見せしめとして利用されとるだけとも知らず、馬鹿な女。
せやけど、それでこそ利用し甲斐がある。

「……せやな」

女の誘いに頷いて、その顎をゆっくりと持ち上げ、顔を近づける。
もう少しで唇が触れ合うと思った、瞬間。


「ダメ――っ!!」


桜架の絶叫が響いた。

普段冷静な彼女からは想像もつかない大声に、動きが止まる。

「蔵ノ介に触らないでっ!」

そこからの展開はもう予想外。
その隙をついて、俺にひっついとった女を、桜架が引き剥がす。
そして、彼女がとった行動に驚く間もなく、細い腕が縋るように俺の首に巻きついた。

「蔵ノ介も、やめて……。お願い……」

耳元で囁くような懇願。
力のない声は、泣いているようにも聞こえた。

それだけで、桜架に抱いとった疑念が全て晴れる。
やって桜架は自分や他人を偽れるほど器用な人間やないから。

胸の奥に凝っていた重たいもんが軽くなる。

「ちょ、何邪魔しよんねんっ!」

そして、今から桜架をどうしようかと働かせとった思考を遮るような甲高い声。

あ、忘れとった。

ついさっきまで俺に甘えとった女が、漸く衝撃から立ち直ったんかキャンキャンと喚きよる。

「アンタこそ白石君から離れやっ!」
「っ!」

離れまいとしたのか、桜架がぎゅっと俺にしがみつく。
その肩に伸ばされる女の腕。

「ぎゃあっ!?」


「ええ加減にしぃや。この勘違い女」
「!?」

女が信じられんもんを見たかのように息を呑む。

「邪魔なんはお前や。さっさと消えろ」

素に戻って睨みつけると、女は一瞬だけ怯む。

「〜〜〜〜っ、この似非聖書っ!」

それと同時に手を離してやれば、どこぞの悪役よろしく捨て台詞を吐いて乱暴に去って行った。



キミだけ



(俺を揺さぶる)



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