Prologue 1/2


花が終わり、若葉が芽吹き始めた桜並木の下にあるテニスコートでは、少し間延びしたストローク音が響く。
つい1週間前に進学したばかりの四天宝寺高校男子テニス部では、俺を含め数十名の新入生が、2コートに分かれて打ち合いをしとった。

全国大会出場常連校のレギュラーとして名を馳せた去年までとは異なり、今は学校指定のジャージに身を包んで、その他大勢とともにラリーの練習。

「あっ!?」

しかも高校に入って心機一転を図ったんか、テニス未経験者も多い。
今、偶然ペアになった相手もその口だったらしく、俺の打った球を打ち返したはええけど、見事ホームラン。
バックのフェンスを越えて、隣の弓道場まで飛んでいった。

へったくそ。
内心で毒吐く。

こんな調子やから、唯一楽しいと思えていたテニスでさえも、最近ではその他のもんとおんなじで面白くない。

世界が色を失くしたように見えるほど、退屈すぎる毎日。

「すまん、白石。俺のせいで」

ラリーに失敗したら次の組にコートを譲って順番待ち。
その長い列に並びなおすと、さっきホームランかましたやつが俺に謝ってきた。

「ええよ、気にせんどき」

中学時代から築き上げた『完璧で人当たりのよい白石』を崩さんように、内心に溜め込んだ毒を隠して、当たり障りのない返答をしておく。
おまけに笑顔を貼り付けておけば、相手もお前っていいやつやなぁと、あっさりと騙されてくれるから、ほんまにちょろい。
ちゅうか、単純すぎてつまらんわ。

「しっかし、やってもうたわぁ」

心のうちで嘲る俺の隣で、ラリーの相手は盛大に溜息をついた。

「選りによって、弓道部に飛ばしてまうなんて……」
「うわ、お前またやったんか」

そんな相手の後ろから、見慣れた顔が会話に加わってきた。

「おー、ケンヤ。なぁ、自慢の脚でもっかいボ」
「断る!」

せっかちな忍足謙也は、相手が言いたいことを言い終わる前に断言した。

「こないだ美人に会えるからってお前の頼み引き受けたら、ものごっつい剣幕で怒鳴られたんやからな!あんなこっわい女がおるとこ、二度と入りたないわ!」
「でも、綺麗な人やったろ?」
「まぁ、それはそうやけど……って、二度も同じ轍は踏まへんで!あのおっかない人を美人いうなら、お前が会いに行けや!」
「なぁ、そんなこと言わへんと、頼む!俺をあの女から助けると思って!」
「嫌やっ!おれがあの女に射殺されるわ!」
「なぁ、ケンヤ〜。頼むっ!この通り!」
「やから、嫌やっちゅうねん!ちゅうか、お前白石に頼めや!」

女に怒鳴られただけで怖いとか、へたれは高校入っても健在か。
謙也を小馬鹿にしながら、2人のやり取りを横目で見とると、突然謙也が俺を指名した。

「は?」
「白石、お前さっき田村とペアやったやろ。こいつが飛ばしたボールとってきたってや」
「白石、すまん!でも、ほんま頼むわ!やないと俺、あの人に次こそ目線で殺されかねん!」

謙也と一緒になって、田村というらしい相手が土下座せんとばかりの勢いで頭を下げた。

「まぁ、別にええけど……」

面倒やと思う自分を隠して、笑顔で返す。
断って、俺がこの十数年で築き上げてきた、自由の代償を壊してしまうんは勿体ないからな。

人間ってのはどいつもこいつも単純や。
『善人』の典型を演じていれば、どいつもこいつも簡単に騙される。
目の前の2人だって、望みどおりの答えを返してやれば、目を輝かせてこちらを見ていた。

「さっすが、白石!頼りになるわぁ」
「ほんま白石ってええやっちゃなぁ」

それが贋物だとは気づかずに。
俺は内心で単純すぎる2人を嘲笑いながら、表には決して出さずに「ほな」と手を振って弓道場へと足を向けた。




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