Ripples


「し・ら・い・し・君」

脳内にこびりついて離れない、さっきの光景。

苛立ちで吐き気がする。
こんな状態でマトモに授業受ける気にならんくて、保健室でサボろうと思った矢先、やけに甘ったるい声が俺を呼んだ。

振り返ると、見るからにケバケバしい女が妖艶な笑みを浮かべて立っとった。

「御釼桜架と別れたんやって?」

立ち尽くす俺に、するりと近寄る女。
首のタイで、桜架と同学年やとわかる。

「退屈、やったんでしょ?」

むせ返るような香水の匂い。
谷間が覗く胸元を押し付けてきとるんは、間違いなくワザとやろう。

「御釼サン、くそ真面目やもんね。白石君もイロイロ溜まってまったんとちゃう?」

……阿呆か。
盛りのついたネコやあるまいし。
お前みたいな女より、よっぽど桜架のが退屈せんわ。

さっきまでの苛立ちと相俟って、悪態が口をつきそうになる。

「ウチなら白石君のこと、愉しませてあげられるで……?」

魔女のように長い爪を持った指が艶めかしい手つきで頬に触れた。
変な色のマニキュアが気色悪くて、振り解きたくなる。

「せやから……、ウチと付き合わへん……?」

誰が、と言おうとしたところで口を噤む。

……この女、苛立ちの解消に利用せえへん手はないな。

「……ええですよ」
「ホンマにっ!?」
「はい。今日の業後、保健室で」

目を輝かせた女に対して、口元だけの笑みを返す。
さっきまで重くのしかかっとった苛立ちは跡形もなく消え、胸が空くような心地がした。



広がる波紋



(桜架、自分が悪いんやで?)



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