Monochrome


「でね、白石君」
「ねー、白石君」

新学期が始まって1週間。
クラス替えっちゅう行いが無意味に思えてしまうほど、学年中から集まる女ども。

「この問題教えてー」
「ええよ」
「あ、白石君ウチはー」
「あー、順番な」

絵に描いたようなハーレム具合に、クラスの男子が羨ましげな視線を向けてくる。

そのひとり、腐れ縁が高じて今年もまた同じクラスになった忍足謙也に視線を送れば、俺が見咎めたとでも思ったんか、目を逸らしてどっかへ行ってしまう。

……ちゃうっちゅうねん、このヘタレ。
さっさと鬱陶しいこいつら連れて、どっかいけ。

化粧のニオイとキツイ香水。
それらが混ざり合うこの空間は、正直言って吐き気がする。

それもこれも、全て桜架の所為や。
桜架がいつまで経っても折れへんから。

『別れる』と宣言したけれど、彼女が一言関西に残ると言って来れば、いつでも許すつもりでおった。

せやけど、頑固な彼女は折れるどころか、懲りずに話し合いをしようとか言い出すほどで。
桜架が屈するまでコンタクトを断っていれば、いつの間にか俺と桜架が別れたっちゅう噂が出回った。

……ホンマ、ムカつく。

「ねぇねぇ、白石君ってさぁ、もう進路とか決めてんのー?」
「んー……」
「あ、何その調査。もしかしてアンタ白石君とおんなじトコ行く気?」
「うっわ、アンタみたいな頭じゃ絶対無理やって!」
「でも、今から頑張ればもしかしたら、」
「夢見すぎー」

学力テスト後に進路希望調査があったせいやろう、周りの話題がそっちに行った。

ったく、いらん奴らはホイホイと俺が望む答えを寄越すのに。
ホンマに言わせたい奴は決してそれを口にしない。

桜架がこいつらと同じくらいアホやったら、楽やったんに。

はぁ、と俺を取り囲む女たちに気づかれんよう嘆息をついた、その時。

『……ふぅん。テニス部にも一応常識を持ち合わせた人間がいるのね』

ふと、脳裏を過ったのは、出会ったばかりの桜架の声。

俺の外見に目を奪われるでもなく淡々と返した彼女。
俺に気に入られようと媚売る奴らばっかやった中で、桜架だけは違った。

「……そういや、桜架のそういうトコが気に入ったんやっけ」

他の女とは違う、自分の芯を持っとるトコ。
そんな桜架が自分で決めた進路をそう簡単に曲げるはずもない。

「白石君、何ぶつぶつ言うてんのー?」
「いや、何でもない」

もうじき授業始まるから、と、たむろっとる女子たちを追い返す。

「少し、我儘やったか……?」

桜架と離れて、退屈が過ぎたせいやろう。
罪悪感めいたものが胸中に渦を巻き始める。

ここで俺が折れれば全てが丸く収まる。
それを理解しとる自分がいる一方で、彼女に屈するのを許せない自分もおる。

「……何で、こないに桜架のことで悩まなあかんねん」

そして何よりも、この俺が彼女に振り回されとるような状況が気に入らん。
せやから、桜架が折れるまで、自分からは行動せんと、固く誓った。



白黒世界



(寂しいやなんて感情、まやかしに決まってる)



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