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私と蔵ノ介が出会って、約1年。
付き合い始めてからは、10ヶ月と少し。

人付き合いが苦手な私にとって、初めての彼氏で。
最初はどうなることかと思ったけれど、蔵ノ介のリードのおかげもあって、彼との交際は概ね順調だった。

そう、この日までは――。



***



「は?桜架、今、何て言うた?」

進級を間近に控えた春休み。
珍しくお互いに部活がなかったから、私の下宿先に彼を招いて、昼食をご馳走していた時のこと。
私が、ふと進学の話を話題に出すと、蔵ノ介は箸を止めて、端正な眉を顰めた。

「え、何ても何も……、来年から東京の大学行こうと思ってるって……」
「桜架って、確か薬科志望やったっけ?」
「そうだよ」
「それなら、別に東京なんて行かんでも、大阪や京都にもいくらでもあるやん」
「そうなんだけど……、私がやりたい研究してるのが東京にある大学だけなんだ」
「東京のどこ?」
「氷帝学園」

志望校を答えると、蔵ノ介はますます渋面を作る。

「……桜架」
「何?」
「大阪、残り」
「なんで」
「何でも」
「やだ」

即答すれば、他の人の前では滅多にしない舌打ちが聞こえた。

「何でやねん」
「何でって……、私はやりたいことがあるって言ったでしょ。それなのに大した理由もなしで、残れなんて言われたくない」

正論(だと思う)を叩きつければ、蔵ノ介は重々しくため息をついた。

「桜架がそこまで言うなら、もうええわ」

切れ長の眼差しが物凄い険を孕んでいる。

「別れよ」
「……は?」

彼の口をついた言葉に耳を疑う。

「せやから、別れよって」
「そんな急にどうして、」
「やって俺、遠距離なんて絶対耐えられへんもん。せやから、桜架がどうしても東京に行くっちゅうんなら、別れよ」
「何、それ、」
「嫌なら、大阪に残り」

抗議するも、にっこりと有無を言わせぬ微笑を浮かべる蔵ノ介。

「それは嫌」

けれど、志望校については1年の時には既に決めていたこと。
だから譲りたくないし、引き下がるわけにはいかない。

負けじと食い下がり、半分睨みつけるように蔵ノ介を見つめると。

「……だったら終いで決まりやな」

彼は呆れたような嘆息を漏らして席を立った。

「な、ちょっとっ!」

バタンっ!

制止する私を振り切って、荒々しく玄関のドアが閉まる。
最後に見た蔵ノ介は、今までに見たこともないくらい冷たい眼をしていた。



ゲーム再開



(俺の傍から離れる?)
(できるモンならやってみや)




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