Crash


嫌なことというのは立て続くものらしい。

今日は月に1度の委員会当番。
白石君と今からの昼休みと授業後の時間を共にしなければならない。
この間までは、なんとなく心地よいと思えていたその時間が、今は来なければいいのにとさえ思ってしまう。
いっそのことサボってしまおうかとも思ったけれど、己の性格上そんな事をするのはどうも気が引けてしまうため、仕方なしに保健室へと足を向ける。

重い溜息を吐いて扉を開ければ、思い描いていた人物はまだ来ておらず、養護教諭がひとり椅子に座っていた。

安心したような……どこか残念なような。

逢いたくない。
逢いたい。

相反する想いが私の中でせめぎ合うのは、やはり私が彼を好きだからなのだろう。

「御釼さん」

己の感情と葛藤する私に話しかけてきた養護教諭は、とんでもない事を言ってのけた。

「私、今から出張なの。悪いんだけど今日の帰りも白石君と一緒に下校時刻までいてくれる?」

私が逡巡している間に彼女は保健室の鍵を手渡して、颯爽と去って行った。

あぁ、本当に今日は運がない。



***



そして問題の授業後。
私のクラスは来週末に控えている模試の説明で、HRが長引いてしまった。

昼みたいに居なければいいのに。
そう思いながら向かった保健室の前には、私の願いに反して、扉にもたれかかるようにして佇んでいる白石君の姿があった。

「遅くなってごめんなさい……」

謝罪の言葉にも返されるのは無言だけ。
急いで鍵を開けると、彼は何も言わず先に入ってしまう。
それからは、ただただ2人の間を重苦しい沈黙が包んだ。

誰か怪我人でも訪れれば、何かが変わったのかもしれないけれど、こういうときに限って来訪者はない。
結局、下校時刻15分前まで私たちはお互いずっと別々の作業をして一言も言葉を交わさなかった。
話しかけたくても、自分から関わるなと言った手前どう話せばいいのか判らなかったし、白石君も話しかけるなと空気で伝えてくるようだった。

「先輩」

だから、白石君に呼びかけられた時は、別の誰かに話しかけているんだと思ってすぐに反応できなかった。

「先輩、聞いてはります?」
「あ、はいっ!」

慌てて振り返ると、白石君は久しぶりにまともに見る端正な顔立ちに呆れたような表情を浮かべていた。

「日誌、大方書いといたんで、後は名前だけ書いて職員室持ってっといて下さい」
「あ、うん」
「じゃ、お先失礼します」
「お疲れ様」

からからと戸を閉める音がして白石君の姿が廊下に消えた。

夕陽の差し込む部屋で独りになれば、自然と涙が溢れて来る。

事務的な会話。
苗字すら呼ばれてない。
しかも、交わしたのは二言三言。


たったそれだけなのに。


嬉しいだなんてどうかしてる。

誰も居ない保健室で、私は久しぶりに声を上げて泣いた。



届かない想いは募るばかりで。
その重みで堕ちていく



(好き、だよ)



-24-


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