Mistake 1/3


……甘かった。

下駄箱の扉を開ける同時に中から溢れた手紙の束に、嘆息が漏れる。
どうせ中は「消えろ」とか「吊るす」とかいった誹謗中傷や脅し文句ばかりが並べられているのだろう。
ご丁寧に黒や赤といった物騒な色をした封筒に包まれたそれらを、開封することなく近くのゴミ箱に捨てた。

ファンクラブに呼び出されてから2週間。
言葉の応酬では敵わないと見たのか、あの翌日から地味な嫌がらせが始まった。
さっきのような手紙は連日。
最近になるとロッカーの私物を傷つけられていたりだとか、隠されていたこともあった。
おかげで予防策として、毎日私物全てを持ち帰る羽目になってしまい、ただでさえ重たかった鞄が最早悲鳴をあげている。
陰口の類にはそれなりに耐性があるほうだが、流石にこうも毎日あからさまな敵意を向けられると気持ちも萎えてしまう。



「御釼先輩?どないしたんです?」

聞き慣れた低音で問われて、保健記録を書いていた手を止める。

「なんでもないよ」
「嘘や。なんかめっちゃ重苦しい溜息でしたで?」
「そんなことないよ」

嫌がらせの発端である白石君。
私が彼に近づかなければそれらの行為もすぐに収まるだろうと踏んで、何度か離れようと試みた。
昼食場所を変えてみたりだとか、帰りの時間をずらしてみたりだとか。
けれど、いくら策を講じても、どういうわけか彼の方が私を探し出してしまうから結局私の行動は全て無駄に終わってしまっている。
加えて、今日のように委員会の当番の日はどうすることもできないし。
私がやっておくから部活に行ってくれ、と言っても真面目な彼のことだ、おいそれとは頷いてくれないだろうから。

恐らくきちんと理由を話して「離れてくれ」と頼めば、多分白石君は理解してくれると思うけれど、それではファンクラブの責任まで彼に押し付けてしまうことになる。
これは私と彼女たちとの間の問題で、彼自身には何の関わりもないことだ。
きゃあきゃあと騒ぎ立てることしかしないファンクラブが仕出かしたことで、彼を責めるのはお門違いだとも思う。
だから、私はこれまでの件を一切白石君には話していないし、これからも言うつもりはない。
それに、彼の性格ならば気にしなくてもいいと言っても、気に病んでしまうに違いない。

テニス部も順調に地区大会を勝ち進んでおり、次の試合で優勝すれば全国が決まるという大切な時期。
こんな時に余計な心配をかけたくなかった。
だからこそ話さないことが最良の選択。

そう思っていた。




-18-


[]



back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -