Interlude byT


どうも、新聞部の遠矢です。
え、なんでお前が出てくるんやって?
まぁそう言わんと話を聞いてや。
俺は四天宝寺イチの情報屋やからな、話聞いといて損はないで。

話っちゅうんは他でもない、俺が最近追っとる二人の人物についてや。
かたっぽはこいつを知らんやつは四天宝寺生やない!っちゅうくらいの有名人、『四天の聖書』白石蔵ノ介。
もうひとりは目を合わせたもんをひと睨みで凍らせる『雪の女王』御釼桜架。

白石は、みんなあいつの甘いマスクと表の優等生面に騙されとるけど、ほんまは奥に色々隠し持っとる。
中学のとき、優等生の驚くべき真実としてそれを記事にしたろうと思たことが何度かあるけど、そのたびにまぁ、うん。
とにかく我が身に危険が及びそうになるから、仕入れた事実は重要機密として俺の頭ん中に保存するだけにしとる。
御釼は……、去年ちょっとごり押ししてインタビュー頼んだら、言葉の刃で致命傷を負わされたから、ほんまは二度と関わりたくない。

そんな深追い危険度ツートップな二人を何故俺は同時に追っているのか!
理由は単純。なんやおもろそうなニオイがするからや。

最初に言うとくけど、俺の記者としての勘は大抵当たる。
そしてそれは今回も期待を裏切らんかった。


最初は些細な変化。
白石が関わるようになってから、御釼に少しずつやけど変化が見え始めた。
鉄面皮と言われるくらい、口の形、果ては顔色さえも全く変わらんかった彼女が、ごくごくたまに、笑うようになった。声に出してとかやないけど、あ、この人笑うてるんやって分かるくらいには、感情が表にでるようになった。

彼女に訪れた小さな変化は波紋となって周囲にも影響を及ぼした。
無表情で冷淡やけど、容姿はかなりええのが御釼桜架。
性格故に表立って騒がれるほどではないけれど、以前から一部の特殊な男子たちにはめっぽう人気があった。
それが、今回多少ではあるものの表情を浮かべるようになったことで、一般的な男子からの支持率もアップ。
先週とったばかりのアンケートをざっと眺めただけでも、女子人気ランキング上位10名には入りそうな感じやし。



「こんちわー」

つらつらと思考を巡らせていれば、もうひとりの調査相手、白石蔵ノ介がやってきた。

「先輩、作業ってなんですか?」
「あぁ、こっちのアンケート全部パソコンに打ち込んでや。アンケート結果の集計出したいねん」

ほんまはパソコン1台さえあれば、3時間もかからんで結果がわかる簡単なアンケートやけど、手間かかるからって嘘ついて、手伝いを白石に頼んどった。
ほんまの理由はそのアンケート結果を白石に見せたいからやねんけどな。

白石に渡さんでおいたアンケート用紙の束に書かれている情報を素早くパソコンに打ち込む。
全ての結果を入力して、「集計」ボタンをクリックすれば。

画面上には高等部女子人気ランキングの一覧表。
そこにある『10位 御釼桜架』の文字列。

やっぱりな。

自分の予想が当たってたことに笑みを深める。



「見てみぃ、白石」

そしてこれを見た白石の反応が知りたくてやつを呼べば、いつもの爽やかそうな微笑の中に、一瞬憎々しげな表情が浮かんだ。
ぎり、と奥歯をかみ締める音が聞こえてくるかのような表情。
中高とかれこれ4年間こいつと一緒におるけど、こんな物騒な表情を滲ませるんは初めてやった。

「お前と関わって変わったもんなぁ、御釼桜架。なんちゅうか、角がとれた?丸なった?そんな感じせえへん?」

更なる反応がみたくて、俺はつらつらと言葉を重ねる。

「やっぱ『雪の女王』を溶かすんはお前の……って白石?」

御釼の変化がもたらした周囲への影響を知りうる限り話しとったら、いつの間にか白石は姿を消していた。
几帳面なあいつらしくなく、部室の扉も開け放したままで。

「さっきの表情といい、この態度といい……。白石のやつ、御釼にマジで惚れたみたいやな」

何となくそんな気はしとったけど、白石が女に惚れるなんて正直驚いた。
白石は、あの見た目と表の性格のおかげでようモテる。それはもう、学校中の女性全員独り占めできるんやないやろかっちゅうくらい。
因みにあいつがこれまでに告られて付き合うた女の数はゆうに2桁を超えている。
しかも、ひどいときなんて同時に複数の女を相手にしていたこともある白石。
普通なら、悪い男としての噂が立ちそうなもんなのに、あいつに遊ばれてた女はみんな「彼を本気にさせられなかった私が悪い」と思い、部外者の女たちも「白石君がそんなことをするはずない」と信じ込んでしまうらしい。
そのせいか、どんなに酷い捨て方をしても、どんなに遊んでもあいつが嫌われるなんてことは絶対になかった。

どんなに愛情を注がれても、決してその相手に本気になることはない白石。
そんなあいつが。

「とうとう嫉妬を覚えたか……」

開け放されたままの扉の向こうを目を細めて見つめる。



「これはどうやら予想以上におもろいことになりそうやわ」

当分目が離されへんな、あの二人。



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