If you cry 1/2


御釼桜架という人物に出会って1ヶ月あまり。知り合いになってからは20日くらい。
数字に直せばかなり短い期間やけど、春が終わって夏になる、そんな季節の変化と同じように彼女は少しずつやけど変わっていった。

「御釼先輩」
「あ、白石君」

まずは、俺の名前を呼ぶようになったこと。

「頼まれとったもん持ってきましたんで、昼、一緒してもええですか?」
「勿論だよ。トラも喜ぶと思う」

部活や委員会に関係ない、普通の会話をするようになったこと。
以前は休み時間に話しかけたりすれば、あからさまに邪険な態度をとられていたが、今ではそれもない。
むしろ歓迎されてるようやった。

冷淡だと敬遠されとる『雪の女王』の正体は、ただ単に人付き合いが苦手で真面目すぎる性格の女やった。
警戒心が予想以上に強かったけど、一旦解ければ懐に入り込むんは拍子抜けするほど簡単やった。

「御釼先輩。これがご所望のキャットフード」
「ありがとう」

約束の昼休み。
我が家の飼い猫の餌を、彼女が世話しとる弓道場裏のトラ猫にわけてやれば、彼女は滅多に見せない笑顔をこちらに向ける。

「トラ良かったねー。白石君がいてくれて」

早速猫用の皿にそれを盛って、トラと名づけたらしい猫に与えながら、彼女は終始笑み崩れとった。

その笑顔は俺だけが知ってる『雪の女王』の素顔――になるはずやったのに。



「あの、御釼先輩」

的場の陰からひょっこりと顔を覗かせる男子生徒。
そいつは昼休みだというのに袴姿やった。

「ちょっと射、みてもろてもええですか?」
「うん、すぐ行く」

隣の彼女が答えれば、男子生徒はお願いしますと頭を下げた。

「ごめん、白石君。ちょっとの間トラ、みててもらってもいい?」
「ええですよ。弓道部、練習熱心なんですね」
「最近になってだけどね」

でもこれで今年は団体でもいいセンいけるかも、と彼女は心底嬉しそうに笑う。

おんなじように笑って彼女を送り出す俺やけど、内心はめっちゃ苛ついとった。

「最近になって男子が、やろ」

低い声でつぶやけば、御釼桜架に預けられたトラ猫がびくついた。

「女王は一般人の感性に鈍感なんやなぁ」

お前もそう思わんか、と傍らの猫に話しかければ、本能的に危機を感じとったんか、にゃあと小さく鳴いて走り去った。




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