Poison


クラスメイトが引いていたくじの結果、私と彼の当番日はあの委員会から1週間も経たずに訪れた。

「じゃあ、仕事の基本は教えたから。あとは二人に任せるわね」

しかも新学期初の仕事だというのに、養護教諭は急な出張が入ったとかで、すぐにいなくなってしまった。
そのせいで、今現在昼休みも半ばの保健室には私と彼の二人きり。
私以外の女子ならば、飛び上がって喜びそうなシチュエーションだ。
けれど、私がそんなことをするはずもなく、ここにはお互いが行っている備品チェックの音が響くだけ。

「ここの棚はこれでええですか?」
「うん。リストのものは全部あったから大丈夫」

時折交わす会話も事務的なものばかり。
それなのに、彼はどこか楽しげな表情を浮かべている。


「……ねぇ、白石君」
「はい?」

彼が小首を傾げると、柔らかそうな髪がさらりと揺れる。

「なんで、高橋君と代わったの?都合悪いなんて嘘でしょう?」

私自身、テニス部ほどではないが練習の厳しい部活に入っているからわかる。
委員会の当番は正直いつあっても都合が悪いのだ。

「別に嘘は言うてませんよ。クラスの当番日やと地区大会前日が初当番やったし。流石に初日から休ませてもらうんは印象悪いでしょ?」
「でもなんでわざわざ私のクラスを選んだの?」

それだけの理由だったら、明日の当番である1年のクラスを選んだっていい。
あえて学年の違うクラスを選ばなくたっていいのに。
しかも、ペアになる相手は私。

「白石君だって、私のこと知らない訳じゃないんでしょう?」
「あーまぁ……。『雪の女王』って呼ばれてはるんやろ?」
「だったら、どうして?どうしてわざわざ私に関わるの?」

それは、この間からずっと疑問に思っていたことだった。
彼ほど人脈のある人間ならば、どこかで私の噂も耳にするだろう。
そうすれば、自然と関わろうとはしなくなるのではないか。
そう思っていたのに、彼はクラスメイトですら嫌がる私に、進んで関わることを選んだから。

「やって俺、御釼先輩が『雪の女王』言われるほど怖いお人やないって知ってますから」
「……え?」

可哀想やったから、とか慰めの言葉を掛けられたなら、そんなものはいらないと拒むつもりだったのに。
彼の口をついたのは想像もしていなかった答え。

「確かに色んな噂、耳にしましたで。弓道部のやつらからは鬼のようだとか、テニス部の友達も先輩のこと恐れとったし」

目を瞬かせる私に、彼は容赦ない事実を突きつける。

「けど、鬼って言われてしまうんは、それだけ先輩が部活熱心で後輩らにも期待しとるからですやろ。
 俺の友達が怖がる理由は先輩にめっちゃ怒られたからやって聞いたけど、あれはあいつらが悪いわ。矢道いうんでしたっけ、あの矢が飛び交う場所。そこに無断で入ろうとしたっちゅうんやから」

流暢に喋って白石君は柔らかい笑みをこちらに向けた。

「先輩は、ちょっと口下手やから誤解されてしまうとこもあるけど、間違うたことはなんもしてへん。やから、俺には御釼先輩を避ける理由はないんです」
「……ありがとう。そんな風に言ってくれたの、白石君が初めてだよ」

白石君は、噂どおり外見だけでなく中身もいい人なんだね。
そう返したら、白石君はそうでもないですよと笑った。



優しい言葉はのように



(少しずつ少しずつ、お前の心を侵していく)



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