Trap


これもまた運命、とでもいうのだろうか。

あれほど関わりたくないと思った彼なのに、あろうことか委員会が重なった。
各学年8クラスに男女それぞれ1名ずつの計48名で構成される保健委員。
その48名が集まる視聴覚室の中に、見慣れたアッシュブラウンを見つけたときには、思わず小さく呻いてしまった。
どうかこちらには気づきませんように、という私の祈りも空しく、彼は入り口に立つ私を振り返るだけでなく、にこやかに手を振ってくる。

頼むから、女子に目をつけられるようなことしないでほしい……。

幸い私の後ろにも数人の女生徒がいたため、私は彼と目をあわさないようにしてクラスごとに割り振られた自分の席へと向かった。


今日の議題は、半年間の保健室当番の順番決めだった。
保健委員の主な仕事は、昼休みと授業後に保健室に詰めて養護の先生を手伝うこと。
養護の先生がいないときは代わりに怪我の応急処置をしたりもする。
当番は各クラスでペアになって、日替わり。
だから、大体月に1度の間隔で仕事が回ってくることになる。
順番を決めるくじが私のクラスに回ってきたとき、それを引いた隣の席に座る同じクラスの男子が、これ見よがしに声を上げた。

「ちゅうかなんで割り振り全部をくじ引きにせえへんねん……。月イチとは言え、昼も業後も御釼とずっと一緒とか耐えられへんわぁ」
「まぁまぁ、そう言いなや」
「やったら、お前代われや」
「それは断る」

クラスメイトとその友達らしき男子生徒が軽口を叩き合う。
私は、彼らに気づかれないよう小さく嘆息を漏らした。

陰口を言われるのは今に始まったことではないから慣れてしまったし、言われる私にも非があることは分かっているけれど、決していい気分にはならない。
今みたいに面と向かって言われれば、尚更。

「やったら先輩、俺と代わって貰えませんか?」

そんな彼らの話に割って入ったのは、にこやかな表情を絶やさない彼。
意外な人物の唐突な申し出に、クラスメイトたちも目を丸くしていた。

「あ、いや俺はべつにかめへんけど……」
「ほな、お願いします」

言葉を濁すクラスメイトに、彼は軽く頭を下げると今度は教室の右端で腕を組む男性教師に向かって手を挙げた。

「センセー!」
「おぅ、なんや、白石?」
「俺のクラスが当たった番号だと都合悪くて……、この先輩と代わって貰てもええですか?」
「まぁ、テニス部は忙しいからな。お前が上級生と一緒でも構わんいうならええでー」

教師は特に意見することもなく、彼の申し出をあっさりと許可した。

「ちゅうわけなんで」

前置きとともに、彼がこちらに向き直る。

「これからよろしゅうお願いします、御釼先輩」

右手を差し出し握手を求める彼。
話の流れから無碍にすることもできなかったため、骨ばったその手を握り返せば、彼は満足げに笑みを深めた。



甘い
差し伸べられたその手さえも



(ほらほら早う、こっちにおいで)



-10-


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