Queen of the Snow 1/2


『雪の女王』

それはいつしか、陰ながらに呼ばれるようになった私の呼称。
それが「冷淡で無愛想な女」という、悪い意味合いのものだということも知っている。

多少物言いがきついことは認めるが、決して冷たく突き放しているつもりはないし、媚び諂うように愛想を振り撒く訳ではないが、人と接する際には自分なりに気を遣っているつもりではあった。

けれど、私は異名が指すところを否定して回ることはしなかった。
否定したところで第一印象を変えることは難しいだろうから。
そんなことに使う労力は無駄だと判断した。
それに、大人数で騒ぐことが苦手な私にとっては、静かな日常を過ごせる要因にもなっていたから、むしろ進んで否定する気にもならなかった。

それなのに。

最近、そんな私に纏わりついてくる人物が居る。

弓道場に隣接するテニスコートで活動するテニス部の1年男子。
特徴的な色をした髪。
十人がみても口々に高評価を下すであろう容姿。
加えて内部進学であることも手伝って、その男を知らぬ者はこの四天宝寺には皆無といって良いほどの有名人。
他人の噂に興味がない私の耳にすら、「四天の聖書」だの「完璧王子」だのと呼ばれる彼の話は入ってくる。
成績優秀。運動神経抜群。全国大会4強の名に恥じぬテニスの腕前。
加えて性格も申し分ないらしく、老若男女問わず憧れの的となっている。

私とは正反対に位置する彼。
そんな彼が何故か最近私に絡んでくるのだ。



「御釼先輩」

……今日もか。

名前を呼ばれて振り返れば、茶髪と呼ぶには明るすぎて、金髪と表現すると語弊のある色合いの髪が視界に入る。

「すんませんけど、ボールとらせて貰えませんか?」

少し悪びれた表情を浮かべる顔の前で掌を合わせる、彼。
テニスがうまいはずの彼が何故こうも毎日ボール拾いにやってくるのか。

……まぁ、その理由は簡単に想像がつくけれど。
以前射場で弓を引いている人がいる最中に、矢道に入ってボールを取っていった1年生を強い口調でを叱りつけたことも記憶にある。
それに懲りたテニス部員が、彼に頼んでいるのだろう。

だけど、何故私にばかり声をかけるのか。
他にも道場の外に出ている弓道部員は何人かいるのに、彼はわざわざ私を探して、話しかけてくる。
ただボールを取るだけならば、もっと近くにいる人に声をかけてくれればいいのに。

彼が最初にボールを取りに来た日から一週間。
その間彼が毎度毎度私に寄ってくるものだから、昨日はとうとう滅多に話しかけてこない女子の後輩たちから、彼とどういう関係なのかと問い詰められた。
今だって、後輩たちだけでなく、同学年の女子や先輩たちからの視線も痛い。

そんな目で見るくらいならさっさとこっちへ来て私と代わってほしい。
私はそんな有名人とは関わりたくないのだから。

噂によれば彼にはなんとファンクラブまでついているらしいから、厄介事に発展する前に離れてほしい。
被らないでいい火の粉を被るなんて愚かなことはしたくない。

「先輩、聞いてはります?」

自らの思考に没頭していると、訝しげな顔をした彼が訊ねてきた。

妬ましげな視線を向ける女生徒たちから、今度は早く彼の望みを叶えてやれといわんばかりのプレッシャーをかけられる。
こちらは、貴女たちの誰かがその役目を引き受けてほしいと望んでいるというのに。
どうやら今日も私の望みは届かないらしい。

私は返事の代わりに盛大な溜息を吐いて、彼を看的所(かんてきじょ)へと案内した。




-8-


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