Trigger


翌日。
俺は遠矢部長から仕入れた情報を頼りに、御釼桜架を捜していた。

「弓道場裏……ほんまにおるんか?」

彼女が昼休みにここに現れると聞いていたため、今日は食堂へ行かんでもええようにパンも持参してきとるんやけど、それらしい人影も見当たらなければ、物音ひとつせえへん。

やはり、1年も前の情報は当てにならんか。

そう思て、引き返そうとした時やった。

「わ、ちょ、待ちなって」

的場の後ろ、弓道部の部室があるところから、女の声が聞こえた。
声の雰囲気は違えど、昨日聞いた御釼桜架の声に似ている気がして、そちらにそっと忍び寄る。

「これは私のお昼だから。アンタはミルク」

背中側に置いてあるバックにパンの袋を隠しながら、子猫の目の前に皿を置いてミルクを与える御釼桜架。
にゃあ、とひとつ鳴いてミルクを舐めるトラ猫の頭を、慈しむように撫でる。

「いっぱい飲んで大きくなるんだよ」

その瞬間、御釼桜架の無表情が温かみのある変化を見せる。

「!」

思わず、息を呑んだ。

猫に向けられたその微笑があんまりにも綺麗やったから。
俺の周りに集まる女たちが浮かべる媚びた笑顔やない。
自然と口元が綻んだ、そんな表現が似合う柔らかい微笑み。

きっと、この瞬間偶然この場に居合わせた俺しか知らん『雪の女王』の素顔。
それは退屈でモノクロな俺の世界に色をつけるには十分なもんやった。

その笑顔を俺にも向けさせたい。
笑顔だけやなくて、泣き顔とか怒った顔とか。
苦しげに歪められた顔ってのもええかもしれんな。

冷淡な女王の仮面をこの手で剥がしてみたい。
気高い女王をこの手で壊してみたい。
誰も手出しをしない、その高みから堕としてやりたい。

そしてこの手で捕らえて、彼女の全てを独り占めしたい。

物騒な思考を巡らせていれば、俺の片頬も自然と吊りあがった。


「まずは孤高の女王様を手懐けんとあかんな」



引鉄をひいたのはキミ自身



(その心がどんなに分厚い氷で覆われとったとしても)
(俺が全て溶かしたる)




-7-


[]



back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -