君とピアス



レンガ造り(のように見える壁紙? かな?)の店内に充満するコーヒーの香り。
シックな感じのこの喫茶店は財前君のお気に入りだという。

今日は彼と付き合い始めてから初のデート。
近くのショッピングモールで、雑貨をみたりゲーセンで音ゲーしたり(結局財前君には一勝もできなかった……。悔しい)、遊び倒した帰り道。
休憩するかと言って財前君が立ち寄ってくれたのだ。

「……さっきから、何やねん」

お洒落な店内の窓際。2人掛けのテーブルに向かい合って座ってた財前君がおもむろに口を開いた。

「俺の顔、何かついとる?」

そこまで言われて、私は漸く自分が彼の顔をまじまじと見つめていたことに気づいた。

「あ、ごめんごめん。そういうわけじゃないんだけど」
「やったら、何やねん」
「財前君って見かけのイメージと随分違うなぁって」
「そんなん、向坂もとっくに知っとるやろ」
「まぁ、そうなんだけど。こういうお店が好きなのも意外だったから、つい」
「……悪かったな、似合わなくて」
「あっ、そういう意味じゃなくてっ」

ぶすくれた口調でそっぽを向いた財前君はアイスのモカジャバをすすった。

そういえば甘党なのも意外だった。
とんがった印象を受ける見かけから、何となく辛党なのだろうと想像していたから。

「何でそういう印象受けるのかなーって、ぼんやり考えてたの」

財前君は今まで見かけで随分損……というか、嫌な想いをしてきた。
優しくて、不器用なだけの人なのに。

「で? 結論は?」
「ピアスだよっ!」

よくぞ訊いてくれました、と、私は人差し指を立てて話し出した。

「左右合わせて5つもしてるのが原因だと思うの」

そうでなくても財前君は十人の人間がみても誰もがイケメンだと答えるくらいにかっこいい。
それに加え持前の気だるそうな雰囲気が相俟って不良っぽいというか、チャラいというか、どちらかというとマイナスの印象を与えてしまうのだと思う。

「んなん、とっくに知っとるわ」
「えぇっ!?」

自らの推理を披露する名探偵の気分でどや顔してたら、財前君は呆れたように溜息をついた。

「……じゃあ、外せばいいじゃん」
「それはできひん」
「何でっ!?」

わかっているのなら対処すればいい。
そしたら、元カノさんみたいな人に捕まる心配もなくなる、とまではいかなくても多少減るのではないのだろうか。

「んなことしたら、俺の個性なくなるやん」
「いやいやいや。財前君なら飾らなくても十分だから」

しれっと信じられないことを宣う財前君に、思わず真顔でつっこんでしまった。

「しゃーないやろ。中学ん時のテニス部が、ド派手なやつばかりやったんやから」
「たとえば?」
「あー……金髪の俊足な先輩とか、後は坊さんみたいな人とか……。成績優秀な部長かて髪の色はミルクティみたいやったし」
「…………それって校則違反なんじゃ」
「いや、全然。むしろ目立ってなんぼっちゅうのが四天宝寺やったし」

何て自由奔放な学校なんだ。

「でもさ、財前君なら顔だけでも十分勝負できることない?」
「ほぼ全員クソイケメン」

自分もそのイケメンの部類に入る財前君がそう評すのだ。よっぽどなんだろう。

「……どこまで本当?」
「全部や」

半分くらいはでっち上げかと思いきや、全てホントのことらしい。
根が単純な私じゃ、財前君が本気で嘘ついたら見抜ける自信はないけど、少なくとも、今言ってることは正しい……と、思う。

「中1ん時からずっとしとるから、今じゃピアスないと落ち着かんねん」
「そういうものなの?」
「そーいうもんなんや」

財前君の屁理屈に、私は苦笑するしかない。

「でも、財前君のいうテニス部の人たちには会ってみたいな」

財前君の個性がなくなってしまうほどのイケメン集団。
一体どれほどのものなのか少し興味が湧いたから。

「あかん」
「即答っ!?」

にべもないダメ出しに目を見開く。

「何でっ!?」

反射的に投げ返した疑問には、沈黙で答えられてしまった。

「私がヘンなことしでかしそうとか、会わせるの恥ずかしいとかだったら、粗相のないように気をつけるし、精一杯のおしゃれするよ?」

財前君が拒む理由になりそうな欠点を列挙して食い下がる私に、財前君は盛大な溜息をついた。

「別に向坂のせいやないねん」
「じゃあどうして」
「まぁ、先輩に……ちゅうか、俺的にちゅうか……、問題あんねん」

どういうことだろう?

私が小首を傾げていると、財前君は、

「とにかく。この話は終いや。帰るで」

と、強制的に話を打ち切って、席を立った。




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