最近ひなの様子がおかしい。

まずその1。

「ひなー?」
「な、何っ!?」

不意打ちで彼女がひとりでいる寝室の扉を開けると、焦ったように何かを隠す。


その2。

ヴーヴー。

「ひな、ケータイ鳴ってる、」
「ありがとっ!」

俺の手が届く前にテーブルの上からケータイを掻っ攫い、番号を確認するやいなや、廊下に出てコソコソと話しとる。

「相手、誰?」
「仕事関係」

戻ってきたひなに訊ねても返されるのはそっけない返事だけ。

結婚前提に同棲をはじめて早1年。
今まで仕事関係の電話も、平然と俺の前でしとったひな。
ここ最近、妙によそよそしいのは何でやろう。



「……それって、浮気ちゃう?」

ひなの行動にかなり悩んどったんが顔に出てたんやろう。
相談に乗ってくれた同僚に話すと、彼は言いにくそうにとんでもない答えをくれた。

「まさか」

ひなに限ってそんなこと、あるはずない。

そう信じていた――んやけど。



***



それから暫く経ったある日。
仕事を終えて帰宅すると、家の様子が何かおかしい。

ひなは家におるはずなんに、灯りは消えとる。
そして、それなのに中には人の気配が複数あって。
更にドアに近づけば、ぽそぽそと漏れ聞こえる声。

嫌な想像が頭をよぎる。

まさか。

それを打ち消すように大きく頭を振って、勢いよくドアノブを引くと。


――パァァンっ!

軽快な破裂音とともに、ぱっと燈される明かり。
眩しさに細めた視界に映ったのは。


「「ハッピーバースデーっ!!」」


満面の笑みで俺を迎えるひなと、懐かしいテニス部の面々。

「お前ら……っ!?」

驚きのあまり二の句が継げん。

「びっくりした?」

そんな俺に、したり顔のひなが寄ってくる。

「みんな、蔵の誕生日祝うために集まってくれたんだよ」
「どうして……」

中高生の間は毎日一緒におったけど、大学進学や就職などの転機を重ねるにつれ、殆ど会わなくなっとったのに。

「蔵、今年の初めに言ってたでしょう?“みんなどないしとるんかな”って」
「あ……」

俺自身すっかり忘れとったけど、言われてみれば、実家で新年迎えた時にそないなことを口にした気がする。

「だから、今日をみんなでお祝いできたらいいなって思って声かけたんだ」

そしたら全員揃ったんだよ、と、ひなは誇らしげに話す。

「……もしかして、最近やけにコソコソしとったんは、このため?」
「うわ、先輩モロバレですやん。どこがドッキリ成功なんスか」

俺らの会話に割り込んできたんは財前。

「まぁまぁ、そう言うたるなって。白石もひなが何しとるかまではわからんかったみたいやし、嘘つくんがヘタなひなにしちゃ上出来やろ」
「って、何で謙也君がエラそうなのよっ!」

謙也のフォローになっとらんフォローに口を尖らせるひな。
その姿を見ながら、少しとはいえ、彼女の気持ちを疑ってしまった自分が恥ずかしくなった。

「ごめんな、ひな……」
「?」

そっと彼女を抱き寄せて、肩口で小さく詫びる。

「それと、」

謝罪の意図をはかりあぐねたんやろう、小首を傾げるひなの瞳を真っ直ぐに見詰めて。

「おおきに。最高のプレゼントや」

感謝の意を伝えると、彼女もふわりと顔を綻ばせた。



Secret Mission
on
Special Day




(ほな皆さーん、記念写真撮るでーっ!どんどんどどどんっ!)
(((してんほーじぃっ!!)))


(最高の誕生日をくれたキミに、もう1度ありがとう)





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