冷たい風がだんだん暖かくなって、春めいてきた今日この頃。
暗く重たい空が、明るいパステルカラーに染まることが多くなってきたからか、自然と心も弾む。

「ホンマにそれだけかしら?」
「え?」

そんなことをクラスメイトの金色さんと話していると、彼女(彼?)は、意味深な笑みを浮かべる。

「おっはよーさんっ!」

ドキッ

戸惑う私の背後から、一際明るい声。
振り返れば、きらきらとした金髪を輝かせて、テニス部の忍足君がかけてきた。

「謙也君、おはようさん」
「おう、小春。五十鈴川さんもおはようさん」
「おっ、おは、おはようございますっ!」

突然まばゆい笑顔を向けられて、緊張のあまり口籠ってしまう。

「そないかしこまらんでもええのに」
「ご、ごめん」
「謙也君、おはよーっ!」

困ったように笑う彼に、申し訳なくて俯いていると、彼の隣を通りかかった女の子が親しげに忍足君の肩を叩く。

「おー」
「ね、前に言ってたCD持ってきたよ」
「え、ホンマ?」
「うん、ここじゃなんだから、早く教室行こっ!」
「ほな、小春、五十鈴川さんもまたな」
「ほなねー」

笑顔で手をふる金色さんの横で、小さくだけど手を振り返す。

「……いいなぁ」

さっきのコは。あんなふうに忍足君と仲良くなれて。
私はどうしてか彼の前になると、緊張してしまってうまく喋れなくなる。
もっと親しくなりたいのに。

「こーら、ひなちゃん。暗い顔したらアカンよ」
「ぎゃっ!?」

眉根を下げると眉間の間を金色さんにぐりぐりされる。

い、痛い……。

「ひなちゃん、やっぱり謙也君のこと好きなんね」
「!?」

さらりと内心を見抜かれて、思いっきり金色さんを振り返る。

「せやけど、中々仲良うなれへんくて困っとるっちゅうとこちゃう?」

すごい。私の悩みも全てお見通し。
IQ200の天才という噂は伊達じゃないみたいだ。

「だって、忍足君って人気者だし……」

内気な私とは全然真逆で、周りにいろんなコたちがいるから話しかけるのもかけづらい。

「ひなちゃん。自分を卑下しないの。ひなちゃんかてめっちゃ可愛えんやから」

社交辞令を言ってくれる金色さんに「ありがとう」と返すと、彼女は「信じてへんわねぇ」と、困ったように溜息をついた。

「あのね、ひなちゃん。そうやって一歩引いたまんまやと、謙也君、他の女の子に取られてまうで?」
「え?」
「謙也君って、同じクラスの蔵リンといっつも比べられとるけど、蔵リンにはない明るさに惹かれてるひなちゃんみたいな女の子もめっちゃ多いんやで?さっきのコかてそうや。うかうかしとると、自分の気持ち伝える前に終わってまうよ?」
「それは……」

流石に嫌かもしれない。

「せやったら、勇気を出して。積極的にいかんとね」
「でも、どうすれば……」
「3月17日。謙也君の誕生日。そこで行動を起こすんが1番ね」
「3月17日……」
「ちなみに謙也君が今ハマってるんは、変な形の消しゴムよ」



***



金色さんのアドバイスを受けて迎えた3月17日。

「五十鈴川さん?どないしたん?」

四天宝寺の告白スポット。
手紙で伝えた約束の時間に来てくれた忍足君。

自分の心臓が耳のすぐ近くに移動したように思えるくらい、煩い鼓動。

「お、忍足君っ、お誕生日、お、おめでとうっ!」

ずいっと押し付けるようにラッピングした袋を渡す。
中身は金色さんに教えてもらった通り、変わった形の消しゴムたち。

「わ、すげ。全部俺の持ってへんヤツばっかやんっ!めっちゃ嬉しいわー。おおきに、五十鈴川さん」
「ど、どういたしまして……!」

喜色満面の笑みを向けられて、ほっぺたが物凄い熱を帯びる。
それを隠すように深々と頭を下げると、忍足君が踵を返すのが視界に入る。

「待ってっ、」

その背中に縋るように彼を引き留める。
心臓は壊れそうなくらい速いスピードでリズムを刻む。

どうなるかわからないし、怖いけれど。
今、言わなくちゃ。

「あ、あのねっ、もう1つだけ、聞いてほしいことがあるの……。い、いいかな……?」



さぁ、勇気を出して
君に届けるこのキモチ




(作戦成功のようね)
(グッジョブ、小春。謙也、これが今年の俺らからの誕プレや)






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