凍てついた冬の風も幾分か穏やかになり、少しずつ近づく春の気配。
通い慣れた道に並ぶ桜の木を見上げると、色づいた蕾が今にも綻びそう。

「蔵ーっ!」

甘やかな感傷に浸っていると、それを吹き飛ばす朗らかな声。

「お待たせっ!」

軽やかにヒールを鳴らして、駆け寄ってきたひなの姿に、不規則なリズムで刻まれる鼓動。

「……どうかした?」
「何が?」
「何かヘンな顔してたから」
「こないなイケメン捕まえて、ヘンな顔とは失礼なやっちゃなー」
「うわ、自分でイケメンとか言っちゃったよ、このヒト」
「ホンマのことやん」
「まぁそうだけどさー」

心の奥を見透かされた動揺をノリで誤魔化す。
無邪気に笑うひなを見れば、自然と募る想い。

「あ、」

溢れ出す感情のまま、彼女に手を伸ばした瞬間、ひなが前方に向かって手を挙げた。

「おはよーっ!」
「遅いっスわ、先輩ら」
「ひなーワイ待ちくたびれてもうたー」
「白石達が最後って珍しいな」

その先にいたのは、中高6年の大半をともに過ごしたテニス部のメンバー。



マネージャーやったひなも含めて10人。
俺ら3年が高校を卒業したこないだまでは、殆ど毎日一緒におった気さえする。

「何かこうしてみんなでおるんが当たり前やったもんな」
「せやねぇ、家族みたいって言うのかしら」
「やったら、オトンは白石で、ひながオカンやなっ!」
「ほな金太郎さん、アタシは?」
「小春はねーちゃんで……」

小春の言う通り、家族って言うてもええくらい、このメンバーには絶対的な信頼と安心感があった。
そして金ちゃんがひなをオカンと評したように、ずっと俺らをサポートしてくれた彼女は、みんなのモン。
そんな暗黙の了解があった。



せやけど。



***



暮れなずむ街並み。
卒業パーティーという名のどんちゃん騒ぎを終えた帰り道。
帰る方角が同じなんを言い訳に、ひなと2人きり。

彼女は、6年の付き合いの中で、他の誰よりも本音を言えて、弱い部分も晒け出せるようになったヒト。
ひな自身が、常に裏表がないから、ごく自然に心が解かれていった。

せやから隣を歩く彼女に、部員や友達に対する感情とは、別の想いを抱くようになったのは、きっと必然。

やけど、ひなと俺の接点は部活だけ。
部員全員に慕われる彼女は、誰に対しても平等で。

下手に想いを告げて、今の関係を壊してしまうのが怖くて。
ひなはみんなのモンやって、自分に言い聞かせて誤魔化し続けとった。

せやけど、同じ時間を重ねれば重ねるほど、想いは強くなって。

そして、卒業して一緒に居られることが当たり前やなくなって、改めて思った。



ひなを俺だけのモンにしたい、と。



「ここでいいよ、蔵」

いつの間にか、ひなんちの近くの交差点。

「わざわざ送ってくれてありがとう。じゃあ、」
「待って、」

明日も変わらず一緒にいられるかのように、さらっと別れを告げようとするひなに手を伸ばす。


これから先もずっと2人で刻を重ねていく。
そんな奇跡を手にしたいから。


欲しいモノは
永遠に続く
キミとのキセキ




(2人の新たな門出を祝うかのように、一輪の蕾が薄紅色に綻んだ)





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