濃灰色の低い空。
気温は零度。
こういう日は心が弾む。
だって、ほら。
「「あ、」」
隣を歩く光と重なる声。
見上げた空から、ひらひらと舞い降りる白い贈り物。
「降ってきたね、雪」
「せやな」
笑顔の私とは対照的に、仏頂面の光。
「光は、雪嫌い?」
「おん」
「何で?」
「寒いし、冷たいし、メンドいやん」
「メンドい?」
光が挙げた三拍子のうち、最後だけ意味がわからなくて、私は首を傾げた。
「電車が止まったりして、ガッコ行くんがメンドい」
「……とか言って、前に雪降った時は休んだじゃん」
それがサボりだということは言わずもがな。
光は私の指摘をしれっと黙殺して、ふと思い出したように話題を変える。
「そういや、ひなは好きなんやな、雪」
「うん」
「なして?」
「んー……、光の温もり感じられるから?」
「は?」
眉を顰める光の腕に、自分のそれをそっと絡めれば、ほのかに伝わる温かさ。
「ね、あったかいでしょ?」
「……歩きにくいわ」
普段こんなことをすれば、間違いなく嫌がられるけれど、今日みたいな日はお咎めなし。
それが、私の雪を好きなホントの理由。
光は照れ屋で少し意地悪なトコがあるから、知られてしまえば、こんな日でも寄り添うことを拒まれてしまうこと確実。
だから絶対に言わないけれど。
「ねぇ、光」
「何?」
光の腕をしがみつくように抱きしめたまま、問い掛ける。
「来年も再来年も、そのまた次も、こうして2人で雪、みられるかな?」
「…………当たり前やろ」
僅かな沈黙が訪れた後、言葉と一緒に、ぎゅっと肩を抱き寄せられる。
「俺は絶対にひなを離さへんから」
耳朶を打つ熱を帯びた声。
光らしくない台詞に私は自分の耳を疑った。
「……そんな顔せんでもええやろ」
余程驚いた顔をしていたんだろう、光は不貞腐れたように呟いて、そっぽ向いてしまった。
その仕種が何だか可愛らしくて、ごめんとありがとうの意味を込めて、そっと頬に口づけた。
雪の魔法
(どうか、ずっとこのまま解けないで)
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