「涼し……」
今日は夏休み中1度きりの図書当番の日。
エアコンの効いた図書室のカウンターに座ってボーッとしとると、ガラガラと入口の扉が開く音。
そっちに顔を向ければ、おもろいくらいに目を見開いた五十鈴川先輩がおった。
「財前、何でおるんよ」
夏休み中ということもあって他の生徒なんて誰もおれへんのに、五十鈴川先輩は律儀に俺の隣に腰掛けてから、小声で訊いてきた。
「俺がおったらあかんのです?」
「いやいや、フツーにあかんやろ。自分合宿はどないしたん?」
「断りました。メンドかったんで」
「はぁっ!?」
素っ頓狂な声をあげた後、口の中でもごもごとありえへんとか何とか呟いとる五十鈴川先輩。
その横顔を眺めとると、俺の視線に気ぃついたんか、じとっとした眼差しを寄越してきた。
「あんた、そない大事な行事サボってレギュラー落ちしてもしらんで?」
「俺がそないなヘマするとでも?」
「うわ、嫌味」
大体、レギュラーしか呼ばれてへん合宿サボったところでレギュラー落ちも何もあったもんやないわ。
「ちゅうか、サボる理由がメンドいとかありえへん。てかこないな奴がレギュラーとかありえへん」
「文句あるんやったらこないな奴をレギュラーに指名したオサムちゃんに言うて下さいや」
ちゅうか本人目の前にしてここまで好き勝手言える先輩の方がありえへん。
そう返したれば、五十鈴川先輩は「それは悪うございました」と大して悪びれもせんと言うてくる。
俺がなんでわざわざ合宿休んでまでココに来とると思うてるんや、この人は。
「……ほんま、なしてこないな人の為に合宿休んだんやろ」
「何か言うた?」
俺のことをただの後輩としか認識してへん先輩に小さく嘆息を漏らすと、それと一緒に吐いた言葉を聞き咎められた。
鈍いクセに耳だけはええんやな、この人は。
「別に何も」
「嘘。絶対何か言うた」
「五十鈴川先輩の空耳でしょ」
「へー……って、そんなんでごまかされるか、阿呆!」
「おー、ナイスツッコミ」
「めっちゃ棒読みやな、財前!」
絶対にほんまのことなんて言うてやらん。
肩に腕を回して白状しぃやとじゃれついてくる先輩の温もりを感じながら、心の中でそう呟いた。
メンドイの本音
(合宿休んだんは、五十鈴川先輩と一緒にいたかったからっスわ)
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