「帰ってくるんだ……」

スマホの画面に表示された一件の新着メール通知。
久しぶりにみたDM以外のアドレスからのメッセージは、彼の数年ぶりの帰国を知らせるものだった。

まだ私が学生だった頃、4つ年上の彼は、仕事での海外赴任が決まった。
ついていきたくても、ついていけなかったもどかしさは、あれから数年が経った今も胸のうちで燻っている。

お互いの誕生日やクリスマスみたいなイベントも、一緒に過ごしたいと思っても、簡単に会いに行ける距離じゃなくて。
メールをしても、半日近くもある時差のせいかすぐには返ってはこない。
ツライことがあって傍にいてほしい時もあったけど、それを伝えたところで戻っては来れない彼に余計な心配をかけるだけ、と飲み込んだ。

会いたい、と文字で告げても、それが容易には叶わぬものだとわかってからは、連絡することさえもまちまちになった。
それを彼はどう受け取っていたのだろう。

『待ってなくてええから』

日本を発つ前に、私にそう告げた彼に、私は必ず待つと言ってあげられなかった。
そのせいもあるのだろう。
帰国を知らせるメールには、大まかな到着日時と『もし待っていてくれるなら、最後にあったあの場所で』なんて曖昧な待ち合わせ内容が記されていた。

あの頃の私は幼すぎて、仕事というものの大変さや理不尽さを多分全く理解できていなかった。
だから、ひとり置いていかれることだけに拗ねていて、置いて行く身となった彼のことを考えはしなかった。

けれど今は、そんな彼の立場も気持ちも、全部ではないけど汲み取れる。

だから。

「ねぇ、蔵」

早く会いたいよ。



「今の人、外人さん?」
「えー、日本人やろ?」
「でも最初の方英語やったし、髪色薄いし」

青空に一筋残る飛行機雲に向かって呟いた私の耳に、飛び込んできた通りすがりの人たちの会話。

「でも、ちゃんとその後、日本語っちゅうか関西弁ペラペラやったやん」

まさか、と思って彼女たちが来た方角をみると、大きなスーツケースと、今の日本の季節には合わない厚手のコートを片手に、辺りを見回してる長身の男性。

何年も会っていないけど、すぐに確信が持てた。

「蔵!」

人目を憚らず手を挙げて名前を呼ぶと、方々に向けられてた彼の視線が、こちらに固定されて、遠目にも破顔したのがわかった。



キミに伝えたい
おかえりなさい




(会えなかった時間をこれから2人で埋めていこう)





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