終業式も無事終えて、3年生への進級を控えた春休み。
4月から始まる総体予選を前に、たまには息抜きしぃやー、と顧問のオサムちゃんがくれた、珍しいオフの日。
それは年明けから付き合いはじめた謙也君との初の休日デートだったりする。

「もう待ってるかな……」

浪速のスピードスターと言われる彼のことだから、きっと今日もかなり前から来ていそう。
そう思って私も早めに家を出ようとしたのだけれど、初デートですっぴんはあり得ない、と姉に捕まり、薄いメイクや、髪を巻かれたりしていたら、待ち合わせ時間ぴったりに。

遊園地の最寄り駅の改札を抜けて、きょろきょろと辺りを見回すと。

−−いた。

「謙也君!」

中央の大きな柱にもたれながら、スマホと周囲を交互にみてる彼に声をかける。

「ひな!」
「ごめん、待たせたよね」
「いやぜんぜ……、ん」

駆け寄って、至近距離で目を合わせた瞬間、不自然に顔を逸らされた。

「謙也君?」
「な、ななななんでもないっ、」

どうしたの? と訊ねるも、彼は口籠るだけで、顔はそっぽ向いたまま。

「それよりも、早よ行こ」

と、手は繋いでくれるのだけれども、少し足早気味だから私は隣に並べず、彼の横顔をみることもできない。

それは遊園地に着いてからも変わらずで、私の不安を煽る。

やっぱりヘンなのかな。
巻いた髪も、メイクも。
服も、少し背伸びして普段は着ないミニのキュロットにニーハイを選んでしまっているし。

「はぁ……」
「ひな? 疲れたん?」

謙也君がいの1番で並んだジェットコースター。
長蛇の列の中、つい溜息を漏らすと、謙也君が心配そうにこちらを振り返った。

「ううんっ、そんなことないよ」
「そうか? でもちょい元気ないで?」

もしかしてジェットコースター嫌やった? の問いに俯いたまま首を振る。
しかも会話はそれでおしまい。

おかしいよね。謙也君、いつももっとおしゃべりなのに。

時間が経てば経つほど、不安ばかりが募る。
私と一緒にいるの嫌なんじゃないか、とか、楽しくないんじゃないか、とか。

「「あの」さ」

長く続く沈黙に耐え切れなくなって声をかけると、同じタイミングで謙也君もこっちを向いた。

「ご、ごめんっ、」
「いや、こっちこそすまん」
「えっと……どうしたの?」

困り顔で頬を掻く謙也君に、言葉の先を促す。

「や、ひなやっぱし元気ないから、いっぺん外でようかと思って」

ひなは? という問い掛けに一瞬迷ったものの、意を決して訊くことにした。

「謙也君、嫌だったりしない? 私と一緒にいるの」
「はっ!?」

謙也君は心外なと言わんばかりに声を張る。

「嫌やったら最初から誘ってへんよ?」
「だけど、今日全然顔合わせてくれないし、喋ってくれないし……」
「う……、」

不安になった原因を伝えると、謙也君は言葉に詰まった。

「それはその……」
「その?」

中々でてこないその先が気になって、俯き加減だった顔をあげると。

「アカンっ!」

制止の言葉と同時に伸ばされた腕。
驚く間もなく、私の頭は謙也君の肩口に押し付けられてて。

「今頭あげんといてや。絶対みっともない顔しとるから」

耳朶に触れる吐息が熱い。
もしかしなくても、謙也君も今の私みたいに真っ赤になっているんだろうか。

「その、俺の態度で不安にさせてしもてごめんな……」

その顔はみれないけれど、ぽんぽんと頭を撫でてくれる手は優しい。

「その、今日のひな、学校あるいつもと違うっちゅうか、その……」

しどろもどろな謙也君。


「その……、なんちゅうか、可愛いすぎて、どーにかなってまいそうで……」


必死になって答えてくれた言葉が、さっきまでの不安を拭い去る。

「そうだったんだ……」
「その、色々誤解させてごめんな」

頭上からの謝罪に首を横に振って答える。

「改めて、こっからデート、楽しいもか」
「うんっ!」

こつんと額同士をくっつけて笑う謙也君。
まだほんのりと赤い顔した彼の瞳に映る私も、同じように顔を赤らめていた。



初々しい恋




(謙也さーん、こんな公衆の面前でくっそ恥ずかしいっスわ)
(ざ、ざざ財前っ!? なして自分がここに)
(そりゃ謙也さんの初デートてったらついてかざるを得んでしょ、ね、部長)
(せやな)
(白石、自分までっ!?)
(ちゅうか、テニス部ほぼほぼ全員おるで)
(マジか……!)

(ひな、ジェットコースター降りたら全力ダッシュな)
(う、うんっ、)





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