卒業式も終わり、授業もなんとなくやけど楽な感じがする3月の半ば。
俺にとっては1年で1番楽しみな日がやってきた。

「なー、ひな」
「何?」
「今日は何の日?」
「へ?」

あれ?

テニス部マネージャーの予想外の反応に首を傾げる。

「何かあったっけ?」

大きな瞳を瞬かせて小首を傾げるひな。

さりげない仕草も可愛えなぁ……、じゃなくて。

「ホンマに何にも思い当たらへん?」
「えー……、だって先月バレンタインは終わったでしょ、で、ホワイトデーもみんなでワイワイ騒いだし……」

腕組みをして、眉間に皺を寄せて悩む姿は、どう見たって本気で何も知らない様子。

「ごめん、ホントにわかんないんだけど……」

大切なことがあるなら教えて欲しいと言うてくれたひなに、別に大したことやないからと返して、その場を離れた。

「はぁ〜……」

彼女の姿が見えなくなった物陰で、盛大に溜息をつく。

「そんなん、言える訳ないやんか……」

今日が自分の誕生日や、なんて、まるでプレゼントを請求しとるみたいなこと、口が裂けてもよう言われへん。

「他の奴らん時は、誰も何も言わんでも、ちゃんと祝っとったんになぁ、ひなのやつ」

俺はやっぱり眼中外っちゅうことなんやろうか。
浮かれとった気分も最早低空飛行。

今年は史上最悪の誕生日になりそうや。



***


「ったく、薄情な奴らやで……」

結局部活前も後も、誕生日パーティーみたいなことは行われず仕舞い。
ひなだけやなく、他のメンバーからも何も言われんかったことが、俺の落ち込み具合に拍車をかけて、地を這うどころか地面にのめり込むくらいに沈み切った気分のまま、俺は一人帰路についた。

「謙也っ、待ってよっ!」

背中から呼び止める声。
首だけ動かして振り向けば、ひなが息を切らせて走ってきた。

「……どないしたん?」
「はい、これ」

立ち止まった俺に彼女が差し出したのは、可愛らしいラッピングバック。

ちょ……、これってまさか。

僅かな期待が湧き上がる。

「誕生日おめでとうっ!」

晴れやかな笑顔で、ひなは俺の期待通りの言葉をくれた。

「どうして……」

忘れられとるんやとばかり思っていたのに。

「私にとって謙也の誕生日は特別だからだよ」

顔に疑問が浮かんでたんやろう。
照れ臭そうに笑いながら、ひなが答えてくれた。

「って、特別って……」
「それ、開ければわかるよ」

彼女に言われるがまま、もらったプレゼントを開ける。
中には俺が集めとる消しゴムと、若草色のタオル地に黄色い星のワッペンを縫い付けてある手作りのリストバンド。
そして、もう一つ。

「メッセージカード?」

ポップな封筒と同じデザインのカードに書かれとった一言。
それは、いつか俺からひなに伝えようとしとったもんとおんなじで。

俺は答えの代わりに、彼女を思いっきり抱き締めた。



不安定バースデー




(前言撤回。今日は史上最高の誕生日や……!)





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