『拝啓 財前光様』

堅苦しい書き出しは、差出人の生真面目な性格によるもんやろうか。

今日は卒業式。
高校を去る先輩らのように、制服のボタンをもぎ取られることはなかったけれど、その代わりに靴箱に大量の手紙が詰め込まれとった。
これもそのひとつ。
多くは目も通さんかったけれど、これだけは捨てることはできひんくて、ずっとポケットにしまっとった。

『いきなり手紙なんか書いてごめんね。びっくりした?』

上品な便箋に残る丁寧な筆跡。
内容の多くは思い出とかのとりとめもない話ばかりやったーーけど。

『でも、私がこの学校にいられるのも、今日が最後だから、勇気出して伝えるね。』


『ずっと財前君のことが好きでした。』



『手紙なんてズルい伝え方でごめんなさい。財前君は怒るかな。でも、もしも許してくれるのならば、心の片隅の更に隅っこでいいので、私のことを覚えていてください。

五十鈴川ひな』


最後まで読み終わるや否や、いても立ってもいられんくなって、俺は部室を飛び出した。

やけど、どこの部活もとっくに歓送会を終えていて、人の姿も見当たらない。

「くっそ……」

もっと早くこの手紙を読んでいれば。
それよりも、俺がちゃんと五十鈴川先輩に想いを伝えていたら。

後悔ばかりが押し寄せる。

先輩の進路も、何もかもわからんままじゃ、追いかける術もない。

闇雲に学校の敷地を走り回って、ふと見上げた校舎。
夕陽が差し込む窓に映る人影。

まさか。

逸る気持ちを抑えて、全速力で駆け出した。



***



ガラっ!

図書室のドアを思い切り引くと、中にいた人影がこちらを振り返った。
大きな瞳から透明な雫を溢すその人は、予想通り五十鈴川先輩で。

「ざ、財前君っ!? どうして……」
「どうして、て、アンタの手紙みたからに決まっとりますやろ」

驚く彼女の方へつかつかと歩み寄る。

「何やねん、心の片隅でええから覚えとけって」

一歩近づけば、先輩は気圧されたかのように一歩退く。

「自分だけ気持ち伝えて、けじめつけて終わりにするとか、ズルすぎますわ」

五十鈴川先輩の細い肩が、閉め切られとる司書室の扉にぶつかる。

「心の片隅なんかじゃ収まりきらんくせに」
「え、」

すっかり逃げ場を失った彼女の瞳が、戸惑いに揺れる。

「……言い逃げなんて許さんで。俺かて、ずっと五十鈴川のことが好きやったんやから」



終わり

はじまり




(やから、俺と付き合うて)

閉じ込めた腕の中。
小さく首肯した彼女を強く強く抱き締めた。





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