「ジングルベールッ、ジングッベール♪」

上機嫌で、微妙に調子外れなクリスマスソングを歌いながら、顧問が持ってきたツリーの飾り付けをしとるひな先輩。
部室の中央に置かれた石油ストーブの目の前に陣取って、その様子を眺めとる俺は、彼女とは正反対にすこぶる機嫌が悪い。

「光ー、ぼーっとしてるくらいなら飾り付け手伝ってー」
「嫌や」
「……ケチ」

そんな俺の心中を知らん先輩の無遠慮な頼みごと。
それを即答で拒否ると、ひな先輩は可愛らしくむくれた。

普段やったら、しゃーなしに手伝うとこやけど、今日の俺はそんなんにほだされへんくらい機嫌が悪い。
それを彼女に理解させるため、思わず緩みそうになった顔を、しかめっ面で固定させる。

「光ー」

一旦は諦めたのか、飾り付けの作業に戻った先輩やけど、暫くしたらまた声が掛かった。

「光ってばー」

それらを敢えて黙殺。

「ひかちゃん、ひーくん、ぴかりんりん」
「……どんなに恥ずかしいあだ名で呼んでも、絶対手伝わへんからな」

以前断固拒否した呼び方を片っ端から使われて、思わず半眼で睨みつけると、先輩は「うっ」と言葉に詰まった。

「じゃあ、手伝ってくれなくてもいいからさ、せめて何でそんなに不機嫌なのかくらいは教えてよ」
「自分の胸にきいて下さいや」

眉を下げ先輩に、冷たく答える。

「うー、わかんないよ」

難しい顔で暫く硬直しとったかと思えば、すぐに諸手が挙がった。

フツー、少し頭使えばわかるやろ。

「……やっぱアホやな。ひな先輩」

率直に貶すと、先輩は無言で口を尖らせる。
困り顔で見上げるひな先輩と視線がかち合うと、後ろめたいようななんとも言えない気分になった。

……ったく、その瞳は反則やろ。

「先輩、明日は何の日?」

仕方がないので、少しだけヒントを与えてやる。

「クリスマスイブ!」
「で、今先輩がしとるんは?」
「部活でやるクリスマスパーティーの準備?」
「因みに俺と先輩の関係は?」

彼女の瞳を覗き込むように問えば、ひな先輩はみるみる頬を紅く染める。

「こっ……、」
「こ?」

可愛えなぁ、と口元を吊り上げながら彼女を眺めていると、恨みがましそうに上目遣いの視線が寄越される。

俺を怒らせたんや、これくらい当然の罰や。

「で、こ?」
「こ……、恋、人……」

真っ赤になって俯く先輩。

まぁ、合格やな。

「じゃあ俺が怒っとる理由は?」
「え、えーっと……」

まさか、まだわからんのか?

僅かに目線がキツくなる。

「もしかして、2人っきりで過ごしたい……とか」

信じられないものを見るような顔で、目を見開く彼女。

「その、もしかして、や。悪いか」

不貞腐れた口調で答えると、先輩は慌てたように両手を振った。

「そっ、そんなことはないよっ!ただ、光はわざわざ2人っきりになるとか嫌がるかなー、なんて勝手に思ってたから……」

ったく、俺のこと何やと思うてんねん、この人は。

それならちゃんと最初からデートに誘えばよかった、なんて項垂れる先輩に、腹立てんのを通り越して半ば呆れる。

せやけど。

何だかんだ言うても、ひな先輩も2人っきりになりたかったんや。

それがわかっただけでも、自然と口元が緩んでしまう。

しゃーないな。今日はこの辺で許したるか。

「先輩」

彼女の隣に屈んで、傍らにあった箱からクリスマス用のオーナメントを取り出して、ツリーに飾り付ける。

「明日のパーティーって昼まででしたよね」
「う、うん」

突然変容した俺の態度に、目を瞬かせながら頷く先輩。

「やったらその後、俺んちでデート。これで今回の件は手打ちにしたりますわ」

にやりと片頬を吊り上げると、ひな先輩は、真っ赤な顔を縦に振った。



クリスマスの憂鬱



(ほな、ひな先輩、帰りましょ)
(う、うん)
(てか、何でそない緊張しとるんスか)
(や、だって光んち行くの初めてだし、クリスマスだし……)
((可愛え……))









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