授業が終わると、あっという間に暗くなる夕方。
街を歩けば、自然と耳に入るクリスマスソングや、闇を華やかに彩るイルミネーション。
浮かれる世間につられてか、私の周りでも、カップルが増えてきた気がする。

「……リア充なんて爆発してしまえ」
「いきなり隣で物騒な呟きすんなや」

教室から窓の外を眺めていると、横から間髪入れずに突っ込まれた。

「だいたい、五十鈴川やってリア充やん」

彼氏、いるんやろ。

日直日誌を閉じて、呆れたようにそう返してきた白石にジト目を向けた。

「一昨日別れたの、知ってるでしょ」
「そういやそんなことを愚痴っとったか」
「高校生でもう物忘れ?才色兼備の名が泣くんじゃないの」
「毎回毎回、別れる度に同じような愚痴聞かされるこっちの身にもなってみ。いちいち覚えとったら俺の脳がすぐにキャパオーバーや」
「……ケチ」

鼻で笑った私を更に嘲笑うかのように冷たく切り返される。

「……ったく、何でこんな毒舌野郎が人気者なのかしらね」

いくら白石の見た目がアイドル並で、表面を取り繕うのが上手いとはいえ、絶対世の中間違ってると思う。

ぼそりと不満を吐き出すと、白石はわざとらしく呆れたような溜息をついた。

「その台詞、五十鈴川だけには言われたないな」
「なんでよ」
「自分かて随分沢山の猫被っとるやん。この学校で五十鈴川の本性知ってんの、俺くらいやろ」
「そんなことないわよ。隣のクラスの三島とか、サッカー部の朝比奈とかも知ってるし」
「そいつら全員、猫被った自分と本性とのギャップに堪えられんかった元カレやろが」

口を尖らせて反論すると、白石はうんざりした口調で吐き出した。

「つか何で、すぐに素を曝すんや。もうちょい大人ししとれば多少は長続きするんとちゃう?」
「だって疲れるのよ、化けの皮被るのも。恋人として付き合う相手にまでそんなことしてたら、私の身がもたない」
「お前な……」

深い溜息と一緒に吐き出した言葉に、白石は困ったような表情を浮かべる。

「だって、ひとのことを好きだの何だの言うのなら、その相手の全てを受け容れるべきよ」
「重いやろ、それ」
「そう?でも、お互い素もみせられないんじゃ付き合うイミなんてなくない?」
「そらそうかもしれんけど。少なくとも五十鈴川の上っ面に惹かれとる奴らにそれは無理やろ」
「そんなこと言ったら、私一生独り身じゃない」

はっきりとダメ出しをしてくれやがった白石に、不貞腐れた口調で返す。

「あーあ、ホントどっかにいないかなー。素の私を受け容れてくれる寛大なひと。サンタにねだったら連れて来てくれるかしら」
「いやいや、そんなんねだられても困るやろ、サンタが」

第一、子供の夢に誘拐させんな、などと律儀にツッコミを入れる白石に、

「冗談に決まってるでしょ、バーカ」

と返したら、

「知っとるわ、アホ」

と言い返してきたので、余計に苛立ちが募った。

「つか、そんなこと頼まんでも素の五十鈴川を受け容れるやつはおるやん」
「どこに」
「ここに」
「……は?」

不機嫌さを隠しもしないで訊き返した私に、白石は自身を指差した。

「からかうつもりで言ったんなら、覚悟、できてんでしょうね……?」

潰すわよと、半眼で睨む私に、白石は真剣な眼差しを向けた。

「大丈夫、本気やから」

射抜くようなその瞳から、視線を外すことができない。

相手はいつも憎まれ口を叩き合ってる白石なのに。

気恥ずかしさで、顔が熱くなる。

「う、ウソ」

朱に染まった顔を俯けて、口をついたのは、相変わらずの悪態。

「ま、そう思われるんもしゃーないとは思うけど」

何せあれだけ貶し合いしとった訳やし。

苦笑気味にそう漏らす白石。

「やけど、あれが素の俺や。あんな風にホンマの自分晒せるんは、五十鈴川だけやねん」

それに、という前置きの後に白石が距離を詰めてきて、吐息を感じられるくらいの近さに、端正な顔立ちが迫る。

「俺はそのまんまの五十鈴川が好きや。やから……」

俺と付き合うて。

ほんのりと頬を染めた白石の台詞は、私が思わず首を縦に振るには十分過ぎるものだった。

「ほな、これからもよろしくな、ひな」

今までみたこともないくらい綺麗な笑顔に見惚れていると、熱っぽい吐息が近付く。
反射的に目を閉じると、柔らかな口づけがおとされた。



素顔のキミが
愛しくて




(ひな、顔真っ赤。以外とウブやな)
(う、うるさい)
(そーいうとこもかわええで)





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