閉じた瞼の向こう側に暖かい光を感じて、眠りの淵から浮上する。
ゆっくりと覚醒し始めた意識が小鳥の囀りを捉え、脳が朝だと理解する。

「ん、ぅ……」

眠たい瞼を擦って、目を開けると、視界の先にミルクティブラウンの髪が映り込む。

静まり返った部屋に響く蔵の小さな寝息。
大人びている普段の様子からは想像もつかないほどあどけない寝顔が、私の視界を独占する。
布団の隙間から覗く彼の素肌と、私の身体に残る倦怠感が、昨晩の出来事を思い起こさせて、少し気恥ずかしくなるのと同時に、胸を暖かくした。

私と蔵はひと月ほど前に、ちゃんと恋人としての付き合いを始めた。
それ以前の私は、彼が抱きたいときに抱かれるだけの、言わば欲求不満の捌け口にすぎなかった。
その時は蔵なりの一線だったのか、自分勝手に呼びつけて私を抱くことはあっても、決して部屋に泊めようとはしなかったし、彼が私の部屋に押しかける時も、夜になる前に自分のマンションへ帰っていった。
だから、こうして2人で朝を迎えるのは今日が初めて。

蔵の彼女になれたんだ、という実感が溢れてきて、すごく満たされた気分になる。

「……そないに見つめられると、顔に穴開いてしまいそうなんやけど」
「えっ!?」

幸せの余韻に浸りながら蔵の顔をまじまじと眺めていると、眠っているはずの蔵が突然喋った。
私が驚いて叫んだのを合図に蔵の瞼が開いて、切れ長のアッシュブラウンの瞳が覗く。

「お、起きてたのっ!?いつから!?」
「んー、ひなが目覚ますちょっと前?」

寝顔、めっちゃ可愛かったで、と言う一言に顔中が熱くなる。

「ハハ、顔真っ赤やで?」

爽やかに笑う彼にそれを指摘されて、更に恥ずかしさで顔が火照っていく。

「ひな、可愛え」
「わ、」

蔵の端整な顔がふにゃりと笑み崩れたかと思うと、ぐっと肩を抱き寄せられた。
遮るものが何もないから、2人の体温が直に触れ合って溶けていく。
私を閉じ込めるかのように背中に回された腕が、頭のほうへ移動してそろそろと優しい手つきで撫でてくれる。

「ひな、身体辛ない?」

私の肩口に顔を埋めた蔵が、先ほどとは打って変わって萎れた口調で訊いてきた。

「うん、平気だよ」
「ほんまに……?」

気怠さは残っているものの動けないほどではないからそう答えると、蔵は少しだけ身体を離した。
眉尻を下げて申し訳なさそうな顔をする彼に、大丈夫だよと伝えたくて、私も彼のミルクティブラウンをぽんぽんと撫でる。

「ほんま、だよ」
「さよか」

慣れない関西弁を真似て答えると、蔵はほっとしたような笑顔を浮かべ、再び身体を密着させる。

「……昨日は、ごめんな?久々やったから押さえ、効かんくなってしもてん」
「ううん、気にしないで」

壊れ物を扱うように、背を擦る蔵の手。
恋人同士になってから、蔵は以前の自分への戒めとして、私を決して抱こうとはしなかった。

そんな蔵に、私から抱いてと告げたのが昨日のこと。
最初はそれでも躊躇っていた蔵だけど、私が懇願すると今と同じように遠慮がちに触れてきた。

「私はすごく嬉しかったから」

以前は、どんなに身体を重ねても全く伝わってこなかった蔵の気持ち。
だけど、昨日は蔵の手や身体全てから、蔵の心が私の中に入り込んできた。
何度も呼ばれた私の名前と、愛の言葉と一緒に。

それが何よりも幸せだった。

「蔵、好きになってくれてありがとう」

自分の想いをそのまま言葉にすると、更にぎゅっと抱きしめられた。
蔵の腕が先ほどよりも温度が高いのはきっと気のせいなんかじゃない。

「……ひなの阿呆」

その証拠に耳元で囁く声は熱を帯びていて。

「そない可愛えことばっか言って、俺に襲われてもしらへんで?」

余裕に溢れた台詞を、余裕のない口調告げる蔵。

「いいよ。蔵になら襲われても。だって私、蔵のこと大好きだもん」

至近距離にある彼の耳元に向かって、蔵は?と訊ねると、不意に視界がくるりと回って白い天井を背景に、珍しく朱に染まった蔵の顔が目の前一杯に広がる。

「それは勿論、」


ひなを愛してます


蔵が紡いだ愛の言葉と一緒に、キスの嵐が私を襲った。



回り道の先に
ハピネス




(礼を言わなあかんのは俺の方や)
(ひな、こんな俺を好きになってくれて、おおきに)

(カーテン越しの陽射しを受けて、もう1度眠りについた彼女に口付けた)





-13-

back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -