俺にはずっと好きな人がおる。

彼女は5つ年上の姉貴の親友。
がさつで喧しい姉貴(とか言うと絶対後から怒られるけど)とは正反対で、控えめで、やけど芯がしっかりしとって、幼い頃から、何故この人があの姉貴の友達なのか疑問に思うくらいやった。

『クーちゃんも遊ぼ?』

姉貴達が小学生くらいん時までは、家に来て一緒に遊ぶことも多かったけど、彼女らが中学、高校、大学と歳を重ねるにつれ、当然家で遊ぶよりも、外に遊びに行くことが増えて、必然的に俺が彼女に会える機会は激減した。

そんな中、俺が中学に入学したばかりのある日。

『あ、そうそう。ひな、最近彼氏できたから』

明日の天気を語るようにサラっと姉貴が暴露した事実に、俺の初恋は散らされた。

もう叶うことのない想いなのに、それでも諦めることはできなくて、あれから2年が経った今も、まだ彼女への想いを断ち切ることはできなかった。

いっそ、幸せそうに彼氏と歩いとるトコでも目撃すれば、ふんぎりもつくのに。

そんなことを考えとった矢先。



***



「ただいまー」

いつも通り部活を終えてからの帰宅。
リビングに電気がついとったから、女性陣の誰かが、先に帰って来とるんやと思ってフツーに入ったら。

「ひなさん……っ!?」

何故か家のソファーでうなだれとった彼女を見つけて、思わず大きな声をあげてしまった。

「あ……、クーちゃん。お邪魔してます」

昔のままの呼び方で、相変わらず丁寧に挨拶してくれるひなさん。
違うんは、彼女に元気がないことだけ。

「お久しぶりです……やのうて、何でひなさんが家に?姉は?」

テンパって、矢継ぎ早に質問ばかり。
でも、ひなさんは嫌な顔ひとつせずに、姉貴に連れられてきたこと、その姉貴が夕飯の買い出しに出かけたことを答えてくれた。

「ったく、ひなさんにお茶も出さずに出てったんかい、あの姉貴は」
「そんな、気にしないで。私がほのちゃん待ち伏せて押しかけたようなものだから」

大雑把な姉貴に対して愚痴をこぼすと、ひなさんが困ったように笑う。
近くでよく見れば、両目も赤くて、少し腫れとった。

「……何か、あったんですか?」
「んー………、ちょっと、ね」

口元だけかろうじて笑みの形に歪めて、言葉を濁す。

「俺に話して貰えませんか?」
「……きいても、つまらないよ?それに……」
「それに?」
「クーちゃん、私に幻滅しちゃうかもしれないから……」

それはちょっと嫌だな。

と、俯くひなさん。

「大丈夫です。何きかされても俺はひなさんのこと、絶対に嫌いになったりしません」
「……クーちゃんがそう言うなら……」

と、躊躇いながら彼女の口が告げたのは、2年付き合った年上の男との別れ話やった。

彼女の話を聞く限り、相手はとんでもないサイテー男。
散々尽くした彼女を「重たい女はいらない」と言って振ったらしい。

「私……、どこで何を間違えちゃったんだろう……」

ぽそりと落とされた問い掛けと一緒に、彼女の頬を涙が伝う。
思わず彼女の頬に手を伸ばし、親指でそれを拭った。

何でやねん。

見も知らない相手の男に腹が立つ。

何でひなさん泣かすんや。

俺やったら。
俺やったら、絶対そないなことせえへんのに。

とめどなく涙が溢れるひなさんの瞳を覗き込むように、顔を近づける。

「……クーちゃん?」

か細い声で俺を呼ぶひなさん。
その小さな唇に、自分のそれを重ねた。

「やっ……!?」

唇と唇が触れ合うだけのキス。
それだけでもひなさんには充分驚きやったらしく、胸を突き飛ばされた。

「な、なななな何で、クーちゃん、キ、キス……っ」

顔を真っ赤にして慌てるひなさん。
その姿が少し子供っぽくて可愛らしい。

「そんなん、俺がひなさんを好きやからに決まってますやん」
「えぇっ!?」

彼女の驚き具合から、何度かアピールした自分の気持ちが全く届いてへんかったことがよくわかる。

どんなけ男として見られてへんねん、俺……。

思わずがっくりくるけど、そんなんでへこたれとる場合やない。

「ひなさん」

にじり寄って、一旦離れた距離を詰める。

「俺はまだ中学生やし、ひなさんにとっては全然子供かもしれへん。やけど、」

目を泳がせてきょどきょどしとる彼女の隙をついて、もう1度唇を重ねる。

今度はさっきよりもずっと深く、ずっと長く。
これまで募らせてきた想いが伝わるように。

満足するまでキスを堪能すれば、自然とお互いに熱い吐息がこぼれた。

「俺は絶対にひなさんを泣かせへん。やから」

俺を選んで下さい。



I'm a Man




(あー、クーちゃんがひなちゃん襲っとるー)
(げ、友香里……)
(何やてっ!?蔵ノ介っ、あたしの親友に手だしたらシバくでっ!)






-9-

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