「いーち、にー、さーん……」
謙也と待ち合わせてる小さな公園。
目印の噴水前のベンチに座っていると、可愛らしい子供の声が聞こえてきた。
「はーち、きゅー、」
声の主を探すと、小さな女の子が時計の柱に額を当てて数を数えている。
「もーいーかいっ?」
「もういいよ」
何をしているんだろうと思っていたら、女の子の問に返される男性の声。
どうやら親子でかくれんぼをしているらしい。
合図を聞いた女の子が、とてとてと危なっかしい足取りで隠れた人を探しはじめる。
(あ、いた)
彼女が探している人は誰だろうと思って視線をめぐらすと、茂みの陰にうずくまってこっそり女の子の様子を伺っている若い男性の姿を見つけた。
「ぱぱー?」
当の女の子はそれには気づかず、見当違いの方向ばかり探している。
「ぱぱー?」
(違うよー、そっちじゃないよー)
心の中で思わず彼女を応援していると、女の子がこちらへ駆けてくる。
「ままー、」
向かった先はもう1つ隣のベンチに座る女性のもと。
「ぱぱ、どこー?」
「どこでしょう?もう1度『もういいかい』ってぱぱにきいてみたら?」
「もーいーかいっ!」
「もういーよ!」
「ぱぱの声、どっちからきこえた?」
「あっちー」
お母さんに答えを告げるが早いか否か、女の子は声のしたほうへまっしぐら。
「みーつけたっ!」
そう叫んだ女の子は、お父さんの腕に抱かれてお母さんのもとへ戻ってくる。
微笑ましい親子の風景。
「いーなぁ……」
私もいつか、あんな風に謙也と一緒に――……
「何が?」
「わっ!?」
3人の姿に未来の自分を投影していると、耳元で声。
いつの間にか至近距離にあった金髪に驚く。
「い、いつからいたのっ?」
「ついさっき。ひな、呼んでも全然気ぃつかへんのやもん」
「ご、ごめん……」
不貞腐れたような口調の謙也に謝ると、ぽんぽんと頭を撫でられる。
「やけど、そないに夢中になって、何見てたん?」
「えっと……、ほら、あそこ」
公園の入口にみつけたさっきの親子の背中。
それを手で指し示すと、謙也はきょとんと首を傾げた。
「あの親子がどうかしたん?」
「さっきまで女の子がお父さんとかくれんぼしてたの。それが何だか微笑ましくて」
流石に謙也との未来図を妄想してたとまでは言えないけれど。
「ひな、子供好き?」
「うん」
唐突な問いに頷くと、相槌と同時に後ろからぎゅっと抱きしめられた。
「俺らも、いつかあんな風に親子でここに来たいな」
「うん……っ!」
ちょっぴり熱を帯びた声が囁いたのは、さっき私が考えてたこととおんなじで。
胸の中がじんわりとあったかくなった。
未来予想図
(それはきっと、近い将来叶う夢)
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