ひらひら。
薄紅色の花が舞う季節。

春は別れの季節だから嫌いという人も多いけれど、私は好き。
暑すぎず寒すぎない程よい気候。
冬から目覚めた草花の柔らかな色は気分を明るくしてくれる。

そして何より、別れの後には必ず新たな出会いが待ってるから。

「何事もポジティブに考えないとね」

それが口癖な私、五十鈴川ひな。
両親や友人からはお気楽すぎると呆れられたりもするけれど、当の本人(つまり私)は全く気にしてない。

まぁ、その性格が災いして。

「独り暮らしする場所、勝手に決められちゃったんだけどねー……」

第1志望の大学に無事合格し、親元を離れることになったこの春。
試験前から自分なりにいくつかの下宿候補をあげていたのに、いざ実際に合格が決まると、それら全部を否定され、叔母さんが運営する下宿に放り込まれることになった。
勿論抗議はしたけれど、叔母さんの下宿に住まないなら大学行かせないとまで言われてしまったので、私は折れるしかなかった。


「せっかく大阪っていう新天地に来たのに、叔母さんの目があるなら、あまり無謀なことできないなぁ」

それが少し残念ではあるけれど、我儘を言って、血ヘド吐きそうなくらいキツかった受験勉強の成果を無駄にしたくはなかったから仕方ない。

「それに、どこでだって新しい出会いはあるでしょ」

と、期待に胸を膨らませ、さっきから地図を片手に見知らぬ街を歩き続けているのだけれど。



いっこうに目的地である下宿先に辿り着かない。



「……もしかして、迷子?」

嫌な想像が頭を巡る。

慌てて叔母さんの連絡先を書いたメモ用紙を探して鞄の中を漁るも、こういう時に限ってお目当てのモノは中々見つからない。

ドンっ

しかも、よそ見をしていたせいで思いっ切り何かにぶつかった。

げ。

条件反射で顔をあげると、私が激突したのは、ド派手な金髪のオニーサン。

「すみませんでしたっ!」

いちゃもんつけられる前に一応頭を下げて、脱兎の如くその場を離れ……。

「待ちやっ」

られなかった。

そのオニーサンに左手をがっつり掴まれてしまったから。

「ごめんなさいごめんなさい、悪気はなかったんです……」
「そんなに謝らんでもええよ」
「……へ?」

平伏叩頭していると、降ってきたのは予想外にも優しい言葉。
顔をあげるとさっきのオニーサンが苦笑してた。

「自分、五十鈴川さんやろ?」

私はというと、オニーサンの口から自分の名前が出たことに目を瞠った。

全然見ず知らずの相手なのに、何故。

「キミの叔母さんに教えて貰たんや」

疑問が顔に出てたのだろう、オニーサンが答えてくれる。

「貴方は……?」
「俺は忍足謙也。キミの叔母さんトコで世話になっとる。これからよろしくなっ!」

ニカっと、白い歯を見せて笑うオニーサン、もとい、忍足君。

彼が差し出した右手をとって握手を交わすと、何かがはじまる予感がした。



はじまりの風




(予感の意味に気づくのは、もう暫く後のこと)





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