学年末考査も終わり、再開された部活の帰り道。
俺はいつものように、なまえと夕飯の買い物を済ませて彼女の部屋へお邪魔した。
夏以降、彼女が独りで暮らすようになってからというもの、週の半分以上はなまえの部屋を訪れて夕飯とか、時にはなまえ自身をご馳走になってから帰宅するのが最早習慣みたいになっとる。

「何か手伝おか?」
「んー、今は大丈夫だから蔵くんはテレビでも観ながらくつろいでて。何かあったら呼ぶから」
「おん」

この会話も何度交わしたことやろう。
初々しい新婚夫婦みたいなやり取りで、個人的にはめっちゃ気に入っとるんやけど。

なまえの言葉に甘えて、テレビをつけるも平日の夕方6時を過ぎると多くのチャンネルがニュースばっかで面白味がないので、耳で適当に聞き流しておく。
画面から外した視線をキッチンの方に向ければ、手際よく夕飯の準備を整えているなまえ。
小柄な彼女がてきぱきと動いている様は、小動物みたいで見てて何か和む。

結婚したら、こんな風景が日常になるんやろうか。
想像すると、自然と顔が緩む。

「……蔵くん?」
「んー?」

キッチンのなまえが振り向いて、見つめとった俺とばっちり目が合うた。

「どうかした?」
「いーや。なまえは今日もかわええなぁって思うてただけ」
「なっ、なな何を突然仰るんですか!?」
「ははっ、ホンマのこと言うただけやで」

少しからかうとなまえはすぐに顔を赤く染める。
もうすぐ付き合い始めて4年めに入るけど、こういうところはホンマに少しも変わらへん。

「もうっ、蔵くんのばか」
「ばかはあかんて」

軽口を叩き合って、2人で食卓を整える。

「ほな、」
「「いただきます」」

……4年、なぁ。
なまえ特製ポテトサラダを口に運びながら、今まであったことを振り返る。
思い返せば長いようで短いとも思う。

泣いたり笑ったり悩んだり。
時には怒って喧嘩したり。
2人の間にはホンマに色んなことがあった。
それらを乗り越えてく度に、少しずつやけど変化もあった。

例えば恥ずかしがりなとこは相変わらずななまえやって、家族と暮らしとったのが独り暮らしになったり、可愛い中に綺麗な部分が混ざるようになってきたりと、少しずつ変わっとる。

他にも……俺の気分読み取るんも上手くなった、とかな。

やったら俺はどうなんやろ。
ちゃんと成長できとるんやろうか。



***


「なまえー」
「蔵くん?」

夕食を済ませ、ソファでくつろぎながら2人でテレビを観る。
なまえが画面の中でコントしとる芸人ばかりを見つめとるから、なんとなく名前を呼んでみると、すぐにこちらを向いた。
けれど、俺がそれ以上何もしないでおいたら、なまえの視線はテレビに戻されてしもた。

何や、腹立つな。
……って、テレビ画面に嫉妬するとか、もう色々末期や、俺。

俺と一緒にいる時は俺だけを見て欲しいと思うし、せっかく2人きりだから構って欲しい。
そんな欲望ばかりが溢れ出すあたり、4年前から全然成長しとらん気ぃするわ。

「なまえー」
「どしたの蔵くん?……って、えっ!?」

名前を呼びながら身体を傾け、そのまま彼女の膝に頭を乗せる。
下から見上げたなまえの顔は真っ赤で、思わず苦笑してしまう。

「膝枕。ええやろ?」
「……うん」

許可が貰えたのをええことに、そのまま彼女の身体の方へ顔を向ける。
頬に触れる柔らかな感触と、なまえの匂い。
それらが愛しくて目を瞑って堪能していると、なまえの手が俺の髪を梳いた。

「……今日の蔵くんは甘えたさんですね」
「やって甘えたい年頃やもん」

頭上から降ってくる優しい声に答えると、「今日の蔵くん子供みたい」って笑われた。

「……こんなとこ見せれるの、なまえしかおらんで」

弱いとこや醜いところ。
人なら誰しも持っているであろう部分を、俺が曝け出せるんはこの子の前だけ。
昔は、なまえにもそういうとこ見られたくないって思うてたけど、彼女がずっと前に「我慢しなくていい」と言ってくれてからは、少しずつだけど曝せるようになった。
最初のうちはいつかなまえに愛想尽かされてしまうかもしれんなんて思うてたけど、そんなことは全然なくて、なまえは俺のそういうとこも全部ひっくるめて包んでくれた。
せやから、俺はこの子の前だけでは素の自分を見せられる。

「わたしもこんな可愛い蔵くん、誰にも見せたくないよ」

そういう点では俺も成長しとるんかな、なんて思っていたら、頭上からちょっとむっとした声。

「寧ろ他の……、他の女の子なんかに見せてたら怒る、かも……」

言いにくそうに真っ赤な顔の中にある、かわええ形の唇をもごもごさせるなまえ。

「……それは嫉妬ですか、なまえさん?」
「う……」

瞬きしながらなまえを見返すと、彼女は言葉に詰まったように小さく呻く。

「教えてや、なまえちゃん?」

身体を起こして、口を噤んで俯いたなまえを呼ぶ。
そういえば、ちゃん付けすると驚いて顔をあげるとこも変わってへんな。

「うぁ……えと、その……嫉妬、です……」

それでも目を見て言うのは恥ずかしいらしく、声もだんだん細く小さくなってそれに比例するように顔もだんだん下を向く。
最後の重要な部分はかろうじて聞き取れるくらいやった。

「なまえちゃん」

ばっと彼女が顔を上げた瞬間、すかさず唇に触れるだけのキスをする。

「!?」

驚いて目を瞠るなまえをそのまま腕の中に閉じ込めた。

「……安心しぃや。俺にはなまえだけやから」
「うん……」

耳元で囁くと返事と共になまえの腕が俺の背に回される。

なまえが俺の全てを受け止めてくれるように、俺もなまえの全てを受け止める。
やから安心してな。

そういう意味を込めて彼女を抱きしめる腕の力を強めて、もう1度耳元で。


「愛してるで、なまえ」


愛の言葉を囁いた。


ふたりがふたりでいるだけで
増えていくのが

シアワセなのです






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