自宅マンションから徒歩1分足らずにある地下鉄ホームから地上に出ると、タイミング悪く小雨がぱらつきだした。
出来るだけ濡れたくはないので、小走りでマンションのエントランスまで向かい、閉まりかけてたエレベーターに飛び乗った。

ベルの音がなって自分の部屋がある階に到着する。
私の部屋は、エレベーターホールの3つ隣。

「ただいまー」
一応挨拶だけはして中に入るけど、案の定中は真っ暗。
最も独り暮らしであるため、電気がついているのも問題があるのだけれど。
玄関と自室の部屋の灯りをつけて、ジャケットだけをハンガーにかけると小さな1ルームの大部分を占拠するベッドの上にダイブした。

「あーもう疲れたぁ」
独り言を言いながらごろごろと転がると、ふと壁に掛けてあるカレンダーが目に留まる。
殆ど何の印もついていない日付欄の中で唯一、今日だけには花丸がついている。

「誕生日に残業って、ツイてないにも程があるよ……」
彼氏である蔵ノ介から、バースデーディナーに誘われていたから今日だけは早く帰れるように手元にあった仕事を前もって片付けていた。

しかし。

「トラブルだかなんだか知らないけど、起こるなら明日起こってくれたらまだよかったのに」

部署内のみんなが懸命に対処する中、私だけ「お先に失礼します」というわけにも行かないので、蔵ノ介に謝罪のメールを送って今日の予定は全てキャンセルして貰い、数時間かかって漸く家に着いたという訳だ。
人生最悪の誕生日。

「あー、ホントにツイてない」
久しぶりに蔵ノ介に逢える。
仕事に忙殺される中、それだけをずっと楽しみにしていたのに。

纏めていた髪を解き、更に寝返りを打つと程よく睡魔に襲われる。
もうこのまま眠りに身を任せようか、そう思ったその時。

ピンポーン

玄関のチャイムの音で、眠りの淵から引き戻された。

こんな時間に誰だろう。

怠けたがる身体を無理矢理起こして、インターホンを取ると。

「こんばんわー、宅配です」

モノクロの画面に映る宅配会社の制服を纏う男性。
だけど、声でホンモノの宅配ではないとすぐわかる。

だって、間違えるわけがない。
今1番逢いたい人の声だったから。

「蔵ノ介!?」
勢い良く玄関を開けると、「何や、バレてしもたん?」と彼はからかうように言って、制服のキャップを外す。
見慣れたミルクティ色とふわりとした笑顔。

「お届け物です」

どうして、と私が問う前に宅配の真似した彼が差し出したのは、私が好きな赤やピンク系で纏められた可愛らしい花カゴ。

「恰好よくて誰よりもなまえのこと愛しとる彼氏さんのご注文でお届けに参りました」

不意に手渡されたプレゼントに驚いて、花カゴと蔵ノ介の顔を交互に見ていると、彼が何の衒いもなくそんな事を言ってくるものだから、思わず吹き出しそうになった。

「……自分で言っちゃう?」
「ええやろ、どっちも事実なんやから」

確かに蔵ノ介は100人が100人みても、恰好いいと評することは間違いないし、自惚れるわけではないけれど、彼に愛されてることは実感してる。

「確かにね」
笑いながら花カゴを受け取れば、その腕を掴まれて彼にぎゅっと抱きしめられた。
驚く間もなく、視界がミルクティ色で埋め尽くされる。

「お仕事お疲れさん」
よう頑張ったな、と頭を撫でてくれる手が嬉しくて顔を上げると、間髪入れずに口唇に触れる、自分とは違う温度。
その熱が離れたかと思うと、今度はとても綺麗に笑う蔵ノ介とばっちり目が合う。

「……顔、真っ赤」
彼の一言に体温が一気に上昇する。
蔵ノ介はそんな私をもう一度腕の中に閉じ込めると、耳元に口を寄せて囁いた。


「ハッピーバースデー、なまえ」


その一言に仕事疲れや荒んでいた気分も全部吹っ飛んで、最悪の誕生日が最高の誕生日に変わった。


シアワセになれる場所
それは貴方の隣だけ



(ほな、今からパーティーしよか)
(え?)
(ちゃんとケーキも持ってきたで)
(いいの?こんな時間に食べたらだめっていつもは……)
(今日は特別や。それに……)

(あとから運動すればええやろ?)
(!)




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ハッピーバースデー沙織さん!
プレゼントとして捧げます!


因みに話の中で白石が着てる宅配の制服は、大学時代に宅配のバイトしてた謙也からの借り物だったりします(笑)




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