さすがに冬ともなると、部活を終えた後は既に真っ暗。

女子更衣室の鍵を職員室に返しに行って昇降口に戻る間にも、闇色が更に色濃くなる。

「みょうじさん、お疲れ」
「あ、白石君」

深まる夜の気配に心細さを感じながら昇降口を出ると、その壁に背を預けて立っていたのは白石君だった。

「今日も待っててくれたの?」
「当たり前やん。こんな暗い中みょうじさんひとりで帰らせる訳にはいかんやろ」
「ありがとう。わざわざごめんね」
「謝らんでええよ。俺が好きで待っとるんやし」

それに、いつも俺らをきっちりサポートしてくれる恩返しや。

と優しく笑ってくれる白石君に、私はいつも断るタイミングを逃してしまう。

「ほら、帰ろ」

自然に差し出される白石君の手。
その手をとれば、彼の体温が掌から伝わる。

ドキドキ。
加速する心音が彼にも聞こえてしまうんじゃないだろうかというくらい煩い。

「みょうじさんの手、冷たいなぁ」
「冷え症なんだ」
「手袋は?」
「今朝慌ててたら忘れた……」
「そうなんや」

他愛のない会話に相槌を打つ白石君。
彼と繋いだ手がおもむろに引かれて。

「し、白石君っ!?」
「この方があったかいやろ?」

そのまま彼の学ランのポケットに導かれた。

「みょうじさんは嫌?」

真っ赤になってあたふたしてると白石君が首を傾げて訊ねてくる。

「嫌、じゃ、ない……」

仮にも片想いしてる相手に恋人みたいな扱いされて嬉しくないはずがない。

しどろもどろになりながら答えると、「ならええやん」と白石君が笑った気配がした。

そして再び歩き出す。
白石君のポケットに左手があるため、私は先程よりも彼に寄り添うように歩みを進めてる。
そんなに近い距離で歩いているのに、コンパスの差が気にならないのは、白石君が私の速度に合わせてくれてるから。

本当に恋人みたい。
通りすがりの人がみたら、仲のいい高校生カップルのように映るのだろうか。

そんなことを想像すれば、胸が少し暖かくなる。
けれど、同時に少し寂しくもなった。

白石君が何故こんなことをするのかわからないから。
頭のいい彼のことだ、端からどういう風に見られるかわからない訳がない。
もしかして、なんて思い上がった期待をしてもいいんだろうか。
それとも、これは単なる彼の優しさで、誰にでもしてることなんだろうか。

「みょうじさんさ、」

ひとり悶々としながら足を動かしてると、頭上から白石君の声が降ってくる。

「俺が誰にでもこういうことしとるんやないかって思うたやろ?」
「えっ、」

思考を読まれたことにドキッとした。

「なんで」と問えば、「そういう顔してた」と返される。

……私ってそんなにわかりやすいんだろうか。

「あんなひとつだけ言うとくわ」

変なトコに落ち込んでいると、少し真剣味を帯びた白石君の声。

「いくら聖書って呼ばれとったって、俺は好きでもないコを毎日待っとったり送ったりはせえへんで?」
「はぁ……って、えっ!?」

脈絡のない会話に反射的に返事をしそうになって気づく言葉の意味。
それを解した瞬間、全身が熱くなる。

「みょうじさん、真っ赤。そういう反応してくれるっちゅうことは、俺も期待してええの?」

雲間から覗く月影が、白石君を照らし出す。

「好きや、みょうじさん。俺と付き合うて下さい」
「はい、喜んで」

頷いた瞬間、白石君の腕の中に閉じ込められた。



月夜の告白




(これからよろしゅうな、なまえ)
(こちらこそよろしくね、蔵ノ介君)



抱き竦められた腕の中で、月灯りに照らされた彼の耳が、ほんのりと紅く色づいていたことは、私だけの秘密にしておこう。





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月影の沙織さんに新サイト開設記念と1周年のお礼に捧げます。
沙織さんのお話が再び読めるようになって本当に幸せです!

これからもぜひ仲良くして下さいませ。





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