重い身体を引きずりながら、1DKの小さな部屋に敷いた布団の中。
電子音をたてた体温計を口から抜けば、モノクロの液晶に表示される38.9という数字。

まだまだ高いな……。

ぼんやりとした頭の片隅で考えられるのはそれだけ。

昨日の忍足総合病院での診察結果はインフルエンザだったから、きっと数日間は高熱が続くんだろう。

あ、薬飲まなくちゃ……。
そうするとご飯も食べないといけないのか。

はっきり言って食欲は皆無。
ついでに言ってしまえば、身体の節々が痛いから、立ち上がって何かをする気力もない。
普段の半分も回らない頭で、冷蔵庫の中身を思い出してみるけど、今喉を通りそうなモノは置いてなさそうだった。

仕方ない、起きよう。

力の入らない身体を無理矢理起こすと、吐き気が込み上げる。

あぁ、こんなことになるなら独り暮らしなんてするんじゃなかった。
実家にいた頃なら、風邪引いた時の食事は母が出してくれた。

「もうヤダ……」

はらはらと頬を伝う涙。
気分悪いだけで泣くなんて幼稚園児か、と頭の冷静な部分が言うけれど、それを止めることはできなくて。
目から溢れ出す雫が、スウェットに沁みを残していく。

「気持ち悪いよぉ、」

誰にも届くはずないのに、口から愚痴が飛び出してしまう。

「ほんなら横になっとき」
「!?」

私しかいないはずの部屋に響いた優しい低音と、ぽんぽんと頭を撫でてくれる大きな手。
顔を上げると、そこにいたのは愛しの彼氏様。

「蔵っ!?」
「おん。お助け蔵リン参上や」

冗談を言いながら、骨張った指で目尻に溜まった涙を拭ってくれる。

「って、蔵、近づいたらダメ……!私、インフルエンザに、」

蔵の優しさにひとごこちつくと同時に、自分の状態を思い出す。

「知っとるよ。ひとりでよう頑張ったな」

子供をあやすように再び頭を撫でてくれる蔵。

「や、だから近づいたらダメ……!」

その優しさにもう1度涙腺が緩みそうになるけど、それを押さえ込んで、蔵の手を退かす。

「ちゃんと予防接種しとるから大丈夫やって」
「いやいや、それでも罹るって聞くし!ていうか、何で知ってるの……?」
「ん?なまえんことなら蔵リンなんでもお見通しやもん。それより、早よ布団入り」

綺麗にウィンクをした蔵は、うまい具合に情報源をはぐらかす。

大分、心配かけてしまったんだな。

蔵に言われた通り、布団を被って横になりながら反省。

発熱した後の記憶を思い出すと、ケータイを触った覚えが全くないし。
恐らく音信不通になったことを心配して、知り合いに問い合わせしてくれたんだろう。

「蔵、」
「ん?」

枕元で、しょうが湯を作ってくれてる蔵を見上げる。

「心配かけてごめんなさい……。来てくれてありがとう……」
「どう致しまして。こういう時はいつでも頼ってや。なまえに呼ばれたらすぐに駆け付けるから」

前髪を梳いてくれる蔵の手が心地好くて、そっと目を閉じた。



君がため



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月影の沙織さんへお見舞いの品として捧げます。

因みに白石にヒロインの病状を伝えたのは、実家を継いだ謙也なんて裏設定があります。

独り暮らしのヒロインを心配し、守秘義務破ってこっそりと教えてしまう謙也さん。
白石さんの方は、きいてびっくり。
スーパーで食材揃えてヒロイン宅へ駆け付けています。
そして、寝てるところを起こさないように、合い鍵使って入ったら、ヒロインがのそのそしてた…という具合です。

綺麗に纏めきれなくてすみませんっ!

拙いですが、沙織さんが少しでも早くよくなりますように。





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