鬱陶しい梅雨空も今日はおやすみ。
さんさんと陽射しが降り注ぐ中、買ったばかりの夏ワンピに身を包んで彼を待つ。
「なまえ!」
マンションのロータリーに、スポーツタイプのエコカーが停まる。
運転席から降りてきたのは、爽やかな笑顔が眩しい私の彼氏様こと、白石蔵ノ介。
「ごめん、待たせてしもて」
「ううん、私も今降りてきたとこだから」
付き合いはじめたばかりのような会話をしながら、彼の車に乗り込む。
「そういえば、どこいくの?」
今日だけは空けておいて、という連絡が来たのはひと月前くらい。
仕事に追われてふたりで出掛ける機会も減る中、久しぶりのお誘い。
すごく嬉しかったんだけれども、行き先を全く知らないままだった。
「ん、それはついてからのお楽しみや」
エンジンをかける蔵ノ介に問うても、悪戯っぽい笑みではぐらかされてしまう。
でも、かえってそれがワクワクする。
だって、蔵ノ介がこういう表情をする時は、必ず何か楽しいことが待っているから。
期待に胸を膨らませながら、車のシートに身を委ねた。
***
そうして車に揺られること、約1時間。
普段の疲れからか、少しうとうとしてた私に、蔵ノ介が「着いたで」と、声をかけた。
「うわぁ……っ!」
目の前に広がる深緑。
耳朶を擽る微かなせせらぎ。
「涼しい……!」
車から降りても、肌に纏わりつくようなじめっとした暑さはなく、ひんやりと心地よい風が吹いている。
「こっちや」
くすりと笑って手招きをする蔵ノ介の後をついていくと、オシャレな洋館が現れた。
「ここって……」
確かテレビでも取り上げられたことのある有名レストラン。
「前テレビでやってたとき、行ってみたい言うてたやん」
「そういえば……」
その時、蔵ノ介もそばにいて、思わずそんなことを言ったかも。
「そんな何気ない言葉、よく覚えてたね」
「なまえのことなら何でも覚えとるで」
冗談めかして笑う蔵ノ介。
差し出された手を取って中に入ると、見晴らしのいい席に案内された。
***
「「ごちそうさまでした」」
本格的なフレンチのコースを食べ終えて一息。
「美味しかったぁ」
「せやな」
「今日はありがとう」
「どーいたしまして。やけど、まだお礼はとっといて」
苦笑を浮かべた蔵ノ介は、ボーイさんを呼んで、何やら頼んだ様子。
「お待たせしました」
何を頼んだんだろう、と思っていると、先程のボーイさんがローソクのついたホールのショートケーキを片手に戻ってきた。
「なまえ様のバースデーケーキでございます」
「え、」
驚いて、ケーキと蔵ノ介の顔を見比べる。
「ほら、早く吹き消して」
にこやかに笑う蔵ノ介に促されて、ふーっと、思いっきり息を吹きかける。
「ハッピーバースデー、なまえ」
拍手とともにお祝いしてくれる蔵ノ介。
こんなふうに、大きなケーキにローソク立ててお祝いして貰うのなんて、何年ぶりだろう。
「驚いた?」
「それはもう」
私ですら月が変わるまで忘れてた誕生日。
蔵ノ介にも忘れられてるのかもと思っていた。
「ちゃんと今日空けといてって言うたやん」
そう言うと、蔵ノ介は心外な、と言わんばかりにむくれる。
「だけど、今日会っても一言もそんな話しなかったから」
「それは……」
「だから余計に嬉しかったよ」
ありがとう、と口にすれば、蔵ノ介もはにかむ。
「ほんなら、もうひとつ」
ことん、とテーブルに置かれる小さな箱。
「開けてもいい?」
「どうぞ」
白いサテン生地の上に、ちょこんと座っているのはプラチナのリング。
「なまえ、結婚しよう。絶対幸せにするから」
予想もしてなかった言葉に、思わず涙が出る。
「……嫌、か?」
戸惑ったような蔵ノ介の声。
違うと首を横に振って答える。
「ありがとう、蔵ノ介……。今日は最高の誕生日だよ」
涙を拭いて笑うと、蔵ノ介の顔が近づく。
「これからも、その最高をどんどん更新させたるで」
イタズラっぽく笑った蔵ノ介の唇が、頬に触れた。
(ふたりでいればそれは永遠に)
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さおちゃん、ハッピーバースデー!春に会ったときリクして貰った白石による誕生日のお話です。
調子に乗って、プロポーズまでさせてしまいました(>_<)
これは完全に寿退社したい私の願望が現れてます…orz
プレゼントなのに勝手なことしてごめんなさい。
書き直しはいつでも承りますので。
こんなやつですが、これからもよろしくお願いします。
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