「みょうじさん」

今日はテニス部がお休みの月曜日。
昇降口で待っていると、後ろから名前を呼ばれる。

「ごめん、待たせてしもた」

そう言って駆け寄って来るのは、四天宝寺のアイドル白石君。

「いっつも部活でみょうじさん待たせてばっかやから、今日くらいは俺が待ってたかったんに……」

あの担任め、と眉を寄せる白石君は何だか可愛らしい。

「みょうじさん?」

くすりと笑うと白石君が怪訝そうな顔をする。

「白石君でもそういう顔するんだね」

可愛いと言うと、白石君は更に少しぶすくれる。

「……男が可愛い言われても、あんま嬉しない」

その様子が尚のこと新鮮で、何だか嬉しくなる。
だってきっと、白石君がこんな表情をみせてくれるのは、私と彼が付き合っているからこそだろうから。

「それよりも、ほら」

少し照れ臭そうに包帯を巻いていないほうの腕を差し出す。

「行こ」
「行くってどこへ?」
「せっかくのオフやから……、その、一緒に」

顔を真っ赤にする白石君。

「……それは、デートのお誘いですか?」
「おん……」

同じくらい真っ赤な顔で訊ねると、小さな声で返ってくる。
それに答えるために差し出された手をとった。



***



それから2人で向かった先は、近くのショッピングモール。

白石君に「行きたいトコある?」と訊かれたので、お気に入りの雑貨屋さんに入った。

「……落ち着かない?」

私が品物を手に取ったりしている横で、何となくそわそわしてる白石君。

「あー……、ねーちゃんや妹に引っ張られて、何度かこういうトコ来たことはあるんやけど……」

女性ばかりの空間は中々慣れないとのこと。

「じゃあそろそろ出よっか?」

そう提案するも、白石君はいや、と首を横に振って。

「みょうじさんの好きなモンとか知りたいし、もうちょっとなら平気」

因みにどんなんが好きかと訊ねられ、店内をまわりながら、私は色ならピンクが好きなこととか、花柄なんかも好きなことを話した。

「あ、」
「どないしたん?」

店の中を巡っていて、偶然目に止まったのは、ピンクの薔薇がモチーフになっているヘアピン。
可愛いなと思って手にとってみるけど、ちらっと見えた値札の数字に、元の場所に戻すしかなかった。

「……ええの?」

白石君が少し意外そうな顔で訊いてくる。

「うん。今は手持ちもないし。また今度来た時に買うから」

少し後ろ髪を引かれるけれど、白石君を急かしてそのお店をあとにした。



***



それからは、2人でゲーセン行ったり、白石君のお気に入りらしいスポーツショップをみたりして、あっという間に時間が過ぎてしまった。

「楽しかったぁ。白石君、今日はありがとう」

ゲーセンで白石君がとってくれた大きなぬいぐるみを抱えてお礼をいうと、白石君は「どーいたしまして」と爽やかに笑う。

「喜んで貰えてよかったわ」

つまらん言われたらどないしようかと思った、なんて白石君は言うけれど、私には白石君と一緒でつまんないことなんてひとつもない。

そう返すと、白石君は「そか、よかった」と照れ臭そうにはにかむ。

「じゃあ、また明日」
「みょうじさん、待って!」

そしていつもの分かれ道。
手を振って、自宅の方へ向かおうとした私を白石君が引き止める。

「まだ1番大事なことが残ってる」
「大事なこと?」

首を傾げる私に白石君が差し出したのは、ピンク地に花柄の小さな紙袋。

「みょうじさん、誕生日おめでとう」
「……誕生日、覚えててくれたの?」
「当たり前やん。好きなコが生まれてきてくれた日なんやから」

顔を赤らめた白石君の言葉に、胸が熱くなる。

「ありがとう……っ!」

お礼を言って紙袋を受け取る。

「開けてもいい?」
「もちろん」

中をみるとそこには。

「これ……っ!」

さっきの雑貨屋さんでみていた薔薇のヘアピン。

「みょうじさん、欲しそうにしてたし、それに……」
「それに?」
「みょうじさんに似合いそうやったから」

つけてみて、と白石君に促されて、いそいそと髪をとめてみる。

「どう……かな?」

白石君に問うと、彼は口元を綻ばせて。

「おん、めっちゃ似合うとる」

私を赤面させるには十分すぎる言葉を宣った。



セカイでイチバン
シアワセな日




(白石君、ありがとう。大好きっ!)
(……俺も、好き)

思わず抱き着いた私を、ぎゅっとしてくれた腕の温もりもプレゼント




--------------------------------------

HAPPY BIRTHDAY沙織さん!
お誕生日当日には間に合いませんでしたが、心をこめて捧げます。




-2-

back

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -