夏休み前の3連休初日。これから始まる長期休みを期待しつつ、けれど学期中の様に頻繁に蔵と会えないことを寂しいなと感じていたその時。静かな室内に来訪を告げるインターホンが響いた。
時計を見ると、時刻は16時を少し回った頃。姉の帰宅にしては早過ぎる。
宅配だろうかと、壁に掛かった電話を取ると、目の前の画面には俯いた頭が映し出された。

「……あの、どちら様ですか」

怪しいなと思いつつも伺う。
すると。

「なまえ……」

顔を上げたのは、ほんの数分前まで考えていた、付き合い始めてもうすぐ1年になる彼、白石蔵ノ介本人だった。


マンションロビーの入口を開けて暫くすると、今度は玄関のチャイムが鳴った。急いで扉を開ければ、全身びしょ濡れになった蔵が立っていた。

「どうしたの、ずぶ濡れじゃない」
「雨、急に降られた」

テニスバックを肩から下ろし「悪いけど、タオル借りてもええ」と蔵は続けた。
すぐにタオルを取りにバスルームへ引き返す。洗いたてのもの何枚かを手に玄関に戻り、タタキに立ったままの彼をふわりと包む。

「傘は?」
「持っとらんかった」

部活を終え校門を出たあたりから雨が降り出し、最初はすぐに止むだろうとそのまま帰宅したものの雨脚は強くなるばかりで。迷惑かとも考えたけれど、雨が止むまで雨宿りをさせて欲しいと蔵は家に来たようだ。

「ごめんな、急に」
「いいよ、気にしないで」

ずぶ濡れになった蔵には悪いけれど、休日にこうして彼に会えたのだから急に降り出したという雨に感謝したい気分だった。もちろん、本人には内緒だけれど。

「……服が引っ付いて気持ち悪い」

濡れて身体に張り付いた制服を蔵は鬱陶しそうに剥がそうとする。けれど上手くいかない。そのうち、お手上げだと言わんばかりに手をだらんと広げて見せて。その姿が可笑しくて、思わず吹き出してしまう。

「なまえー」
「ごめん、ごめん。ふふっ、でも蔵、濡れ鼠だね」

濡れた髪を新しいタオルで拭きながらそう言うと、蔵は急に俯き黙り込む。
怒らせてしまったのだろうか。

「……蔵?」

不安になって名前を呼ぶ。
しかし返事は無い。

「……あの」
「えぇ男やろ」
「えっ?」

伸びてきた手に手首を掴まれて、タオルがパサリと床に落ちる。
驚いて蔵を見れば、前髪の間からこちらを見る彼の視線と髪から滴る雫が相まって、えもいわれぬ色っぽさを醸し出していた。

「水も滴って……えぇ男やろ」

ふっと妖しく微笑み身体を引き寄せられる。
最後の囁きは、耳に直接吹き込まれた。
低く掠れて酷く腰にくる声。立っていられなくて、今にもその場に崩れ落ちそうになる身体、力強い腕がそれを支える。

「なぁ、なまえ」

その声に支配されると、もう、頷く事しか出来なかった。


水も滴るいい男




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相方のミナムより共同運営記念に貰いました。
メールで送られてきた時はそれはもう驚きました。
不意打ちでしたからね…。

そして私が蔵の声に弱いのを知っているからこその内容に本気で腰砕けです(笑)

ありがとうそして今後ともよろしくゝ




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