はるすぎて


爽やかな風。
新緑の薫り。
燦々と降り注ぐ太陽も、真夏よりは柔らかくて心地好い。

「やっぱえぇなぁ、夏は」
「っスね」
「せやなぁ。白いブラウスから伸びる細い腕とか」
「いや、そこは暑さで髪を纏めるからこそみえる項やろ」
「先輩らアホちゃいます?やっぱ夏いうたらシャツに透けるカラダっしょ」
「「あー確かに」」

さっきから窓の外を眺めながら口々に勝手なことを述べているコイツらさえいなければ。

「確かに、じゃないわよ!この変態どもっ!」
「何や、菅野いたんか」
「朝のミーティングからずっといたでしょうがっ!」

目を瞬かせる白石に怒鳴り返す。

ったく、アンタらが好き放題に提案しまくった新しい練習メニューを纏めたの、誰だと思ってんのよ!

「すんません、存在感薄すぎて気づきませんでしたわ」
「何だと、財前っ!」

がおぅと吠えると、財前は小馬鹿にしたような溜息をついた。

「ちゅうか菅野センパイ、も少し色気のあるカッコできません?」
「は?」
「例えば夏服とか夏服とか夏服とか」
「夏服しかないじゃんかっ!」

思わずつっこむと、あとの2人が盛大に笑う。

「財前、ええこと言うたな」
「せやで、菅野。さっさと夏服に着替えや」
「できるわけないでしょっ!」

大体、体操服ならともかく、制服を2着も持参してくるヤツは、そうそういない。

「やったらせめてそのベストだけでも脱ぎ」
「脱げるか、バカっ!」

ついさっきシャツに透けるだの何だのと宣ってたヤツらの前で、ベストを脱ぐのは貞操的なイミで自殺行為だ。

「「「ちっ」」」
「揃って舌打ちしないっ!」

全く、こんなスケベ丸出しの変態どもがアイドル並の人気を誇っているとか、世の中何か間違っている。

「んなこと言うたって、俺たちやって思春期真っ盛りな男子学生やもん。しゃーないやろ。なぁ白石」
「せやせや」
「それに勝手に群がってくるんは女子の方やし。文句あんならそっちに言うて下さいや」

……コイツらの本性、いっぺん全校生徒に暴露してやろうか。
そしたらこの三馬鹿に夢を抱いていた女の子も一気に覚めるハズ。

「やめとき菅野。自分が変人扱いされるだけやって」
「俺ら人前でこういう話題、絶対話さへんし」
「これでも一応、外聞崩れんように陰ながら努力してるんスから、邪魔せんで下さいよ」
「……ちっ!」

そうだった。
コイツら容貌だけじゃなく外面も無駄に良いんだった。

「てゆーか、そんなけ外聞気にしてんなら、ちょっとは私の前でも気使いなさいよ」
「「「………………」」」
「何故に固まるっ!?」

3人は無言で互いに顔を見合わせたかと思うと、まじまじとこちらを見つめた。

「あー……、菅野が女子やってことすっかり忘れとったわ」
「何だとっ!?」

しれっと酷いことを宣う白石に歯を剥くと、他の2人も失礼極まりないことに、白石に同調して頷いている。

コイツら揃いも揃って言わせておけば……っ!

「皆さーん、そろそろ教室戻らんと、チャイム鳴ってまうでー?」

怒りのボルテージが沸々と上昇する中、勢いよく部室の扉が開き、場の空気にそぐわない間延びした声が響いた。

「……って、ヤケに空気重いわねぇ。何かあったん?」

きょとんと首を傾げる彼女(いや彼か?)は、変態野郎ばかりのこの部で、唯一乙女ゴコロを理解してくれる、いわばオアシスのような存在。

「聞いてよー、小春ちゃんっ!白石たちがかくかくしかじかで苛めてくるのっ!」
「あらあら、そりゃ災難やったわねぇ、詩歌ちゃん」

よしよしと頭を撫でてくれる小春ちゃんに抱き着くと、後ろで三馬鹿が喧しくなったけど、それを全て黙殺する。

「ほな、変態さんらは置いといて、ワテらだけ先に教室行ってまひょか」
「うんっ!」
「な、小春浮気かっ!?」
「うっさい一氏っ!」

小春ちゃんの後を追ってきたらしいユウジは、部室に入るなり見事小春ちゃんに一蹴されて。

「ちょ、待ちやっ、菅野っ!」

私も後ろでごちゃごちゃ言ってる白石たちを全力で無視して、小春ちゃんと2人、手を繋いで部室を後にした。



はるすぎて
なつきにけらし しろたへの
ころもほすてふ あまのかぐやま




(あーあ、行ってまった)
(どう考えたって小春よりは俺らのがマシやろ)
(そりゃそうっスよ。金色センパイ、さっきちゃっかり菅野センパイの腰に触ってましたし)
(何やてっ!?行くで、謙也っ、菅野の貞操を守るんやっ!)
(おうっ!)



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